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「13歳のハローワーク」 by 村上龍 を読んで

中学生、高校生あたりを対象にした職業紹介の本というのはこれまでにもあったと思うが、この本がこんなにも受けたのは、著名な作家が書いたものだということと、「13歳のハローワーク」というネーミングのうまさによるものだろう。また、かなり専門的というかあまり一般的でない仕事まで紹介されているので、職業の数が多い。自衛隊や傭兵、あるいはアメリカ軍兵士として働くことまで紹介されているのは今までの職業紹介の本にはなかったかもしれない(今までの本をみんな知っているわけではないが)。職業紹介の仕方も、完全に中立的な立場で書いているわけではなく、ある程度著者の思いが入っているし、ところどころにはさまれるエッセイも著者の個人的な思いを綴ったものなので、普通の職業紹介の本に比べると読み物として楽しめる。

「わたしは、この世の中には2種類の人間・大人しかいないと思います。..(中略)
...2種類の人間・大人とは、自分の好きな仕事、自分に向いている仕事で生活の糧を得ている人と、そうではない人のことです。」(p.6)

もしそうだとすると、幸せなことに、私は自分の好きな仕事をしている大人だと思う。だから、今、私には「ハローワーク」は必要ないのだが、それでも他の仕事に興味はある。13歳なら、可能性にあふれているのだから、こういう本を手にとってみるのもいいと思う。

私の場合、子どもの頃、13歳の頃に、保育士になりたい、と思ったわけではない。小学校教師になりたいと思い、紆余曲折はあったものの、実際にそうなった。教師の仕事も好きだったけれど、今のこの保育の仕事は、もっと私に向いていると思う。確かに、子どもの頃から、私が保育の仕事を好きになる可能性はあった。9歳の頃、弟が生まれ、彼がどんなふうに大きくなっていくのか、どんなふうに言葉を話し始めたりするのか、知りたいと思った。彼が言葉を話し始めて、おもしろいと思ったことをノートに書き留めたりもしていた。

教師をやめたのは、自分の子どもが生まれて、母親業と教師の仕事を両立できなくなったからだ。母親という仕事はおもしろかった。自分が母親という仕事をそんなに好きになるというのは結構意外だった。やりたいことはいろいろあったし、子どもという存在は自分の時間を奪うものになるだろう、と漠然と思っていた。でも、子どもが生まれてみると、その成長を見るのはおもしろかった。子どもにとって、私はなくてはならない存在で、それまで、自分が誰かからそんなにも必要とされる、ということはなかったから、おかげで自分を肯定的にとらえることができるようになった。

ここまで書いてきて気がついたのだが、著者は「専業主婦(あるいは主夫)」というのを選択肢に入れていない。NPOという選択肢については書かれているのだが、「仕事とは基本的にお金を生むものである」と考えているようだ。
「子どもはいつか大人になり、仕事をしなければいけないのです。仕事は、わたしたちに、生活のためのお金と、生きる上で必要な充実感を与えてくれます。」(p.6)
「趣味と仕事の大きな違いは、それで報酬を得るかどうかだ。」(p.409)

「必ずしも正社員になる必要はない」とか、「アルバイトであろうと、パートであろうと、働き方(雇われ方)が問題なのではない、どんな仕事をしたいのか、ということが重要なのだ」というような意味のことが述べられているのに、専業主婦、という選択肢については何も語られていない(本を隅から隅まで読んだわけではないので、もし、どこかで語られているのなら教えて下さい)のはどうしてだろう。現実にはそういう選択をする人だって少なくはないし、無視できないと思うのだが。

私自身は、専業主婦というのを最終的に選択することはなかった。子どもを育てるのはおもしろかったけれど、他の国の文化とか、そういうものにも興味があった。だから、教師の仕事をやめてから英語の勉強を始めた。今の仕事は、他の国の文化を見ながら、子どもの成長を見ることもできる、という、私にとっては理想的な仕事だ。

家族のために、何が何でも仕事をしなければならない、という状況だと、理想の仕事にめぐりあうのはむずかしいのかもしれない。私の場合、教師の仕事をやめても夫の給料で生活することはできたから、専業主婦という充電期間を経て今の仕事に就くことができた。しばらく前に奥薗壽子さんの「3時間睡眠で何でもできる」という本を読んだのだが、彼女が料理研究家になるまでの過程が綴られていて、おもしろかった。13歳の時に希望していた職業が理想の職業、生涯の職業、となる例はは珍しいことなのかもしれない。人生のいつの時期でも、何か好きなことにめぐりあえれば、好きなことにのめりこめる環境にあれば、ラッキーということになるだろう、と思う。

434400429913歳のハローワーク
村上 龍
幻冬舎 2003-12-02

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書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

感想分を拝見しました。この本の中で紹介されている514種の中に「専業主婦」と言う職業?の紹介がないとのご意見、世の専業主婦の皆さまにとって勇気つけられるご意見と思います。(ジェンダー問題は別の討議が必要と思います)
私はこの本の出版目的は、現在取り上げられているフリーターと称する大きく社会問題になりつつある未就業者の対策に役立つものと思っています。どの国でも失業者問題は世界同時に発生してるようで米国でも若年女子の「ブーメランキッズ」と称する自立できない女子若年未就労者が問題になっている新聞記事をみました。スーパーの職業発達理論的に言えば日本の若者達は30歳位までに自己のキャリアの定着期を迎えるには困難な人達が多いと言う指摘であり、せめて13歳頃には自己の職業観を目覚めさせる「家庭教育」が必要で丁度良い教材としてこの本が出版されてたと思います。自分の息子あるいは娘の13歳の誕生日のプレゼントにベストの品と思います。

投稿: 中山裕 | 2004.04.06 17:48

中山裕さん、コメントありがとうございます。
私自身の経験からいえば、私が現在の職業に就いたのは30歳を過ぎていました。
だから、必ずしも、30歳頃までに自分の職業を確定させる必要はない、という
気がしますが、確かにある程度の方向性を持っているといいかなぁ、とは思います。

ブーメランキッズというのは聞いたことがありませんでした。成人してからも何かに
つけ親を頼りにする”子ども”、あるいは、いったん独立して家を出たものの、
何年かしてまた親と暮らすためにもどってくる”子ども”のことのようですね。

アメリカでよい仕事を得るのはむずかしいらしく、一人暮らしで、軍人でもないのに
基地で働いている(要はうちの保育園(^^;))人に、「何故アメリカに帰らないのか」と
尋ねると、アメリカでいい仕事を見つけるのは大変、という答えがしばしば返って
きます。(保育園の仕事も決して「いい仕事」ではないと思いますが。)

ただ、アメリカ人の働き方を見ていて羨ましいと思うのが、基本的に年齢差別がない
ことです。40歳、50歳で、どんどん違う職業にチャレンジしています。もっとも、
基地の中なので、アメリカ一般の状況がわかっているわけではありませんが。
たとえば「日本では教師の採用試験は一定年齢以下でないと受けられないんだ」
という話をすると、一様に「信じられない」「それって年齢差別じゃないの」という
反応が返ってきます。

私がこの本を図書館から借りた時は、確かに自分の娘達を意識していました。
彼女達もそれぞれに興味のあるところを読んではいたようです。
小学校の卒業式で子ども達の将来の夢を聞いても、子どもは結構夢をもっているし、
こういう職業紹介の本にも興味を示すと思います。フリーターが増えているのは
子どもや若者の側じゃないほうに大きな原因があるのかもしれません。

投稿: じゃりんこ | 2004.04.06 22:15

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