噛む
保育園の1歳児のクラスでしばしば問題になるのは、子どもが子どもを「噛む」ことだ。歯が生えてくる時期なので、とにかく何か噛みたくて、理由もなく噛んでしまうこともあるし、言葉が十分に使えないので、気に入らないことがあると、言葉で文句を言うかわりに相手を噛んでしまう、ということもある。
Aは、以前、そんなふうに人を噛むことがあったのだけど、あまり強くは噛まないし、母親が、Aが自宅で姉を噛むのに気づいてAを諭したようで、しばらくは人を噛むことがなくなっていた。それが、3週間のバケーションからもどってきた先週、木曜日に、友達のKを2度噛む、ということがあった。
最初は、お昼寝から起きて遊んでいた時で、おもちゃの取り合いになったらしい。Aに「人を噛むのはよくないことだ、食べ物は噛んでもいいけど、人は噛んじゃいけないんだよ」と話すと、「オーケー」と言っていた。ところがその日はその後も何度か誰かを噛もうとする。そして夕方、みんなお迎えを待っている時、私は子ども達に本を読んでいたのだけど、保護者がひとり迎えに来て、その保護者と話をしている間、子ども達へのお話が途切れてしまっておもしろくなかったのか、隣にいたKを噛んだ。
2度も同じ子を噛んでしまったので、Aの父親が迎えに来た時、Aが今日、友達を噛んだことを話し、家庭ではどうかを尋ねた。父親はAを抱き上げ、Aに「噛んだらだめじゃないか」と言うと、Aは声をあげて泣き出した。私達がいくら「噛んではだめ」と言っても泣くことはなかったのに。1歳児が私達の言うことをどのくらい理解しているのか、なかなかわかりにくいことがあるけれど、Aの場合は明らかにわかっていたようだ。
そして金曜日。Aは友達を噛もうとすることはなかった。
父親がお迎えに来た時、「今日はどうだった?」と尋ねられたので、「今日はいい子にしていましたよ」と話すと、父親はほっとした様子で、Aに「Aはよくわかってるよね。もう噛まないよね。」と言い、Aはそれに対して肯いていた。でも、もう一日様子を見ようと思っていたけれど、今日も友達を噛むことはなく、本当に父親に言われたことで噛むのをやめたようだ。
私達が言ったことも父親が言ったことも同じなのに、どうして父親の言うことがAにはこたえたのだろうか。決して威圧的な父親ではなく、優しいパパだ。やはり両親はAにとって特別大切な人、ということなのかなぁ。
「噛む」という問題は、その子が人を噛み始めた時に親と話すことで解決する場合もある。以前にもそういう例はあった。もちろん、親と話しても解決しないことも多いのだけど。「噛む」だけじゃなく、人を押し倒す、髪をひっぱるなど、友達のいやがることをすることについて、親に話しても、そのことを子どもと真剣に話そうとしない親もいる。保育者と保護者がタッグを組んで真剣に子どもに話せば、結構1歳の子どもにも伝わる、ということかもしれない。
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