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本「イスラエル 兵役拒否者からの手紙」by ペレツ・キドロン(編)

イスラエルでは兵役が義務になっている。多くの国民は誇りを持って任務についているが、パレスチナの占領地で任務についた人のなかで、自分のしていること、イスラエル軍のしていることに疑問を感じ、兵役を拒否する人が出てくるようになった。兵役を拒否すれば罰せられ、投獄される。兵役を逃れようと思えば、仮病を使ったり、海外旅行にでかけたり、というような方法でできなくはないのだが、そのような方法をとらず、正面から占領に反対の立場を表明した人たち。その人たちが、どういう考えで兵役を拒否したのか、ということを軍や友達にあてた手紙で述べたものを集めた本。

ひとつひとつ胸に響く言葉が多いので、そのままいくつか引用したい。長くなるので、「...」を使って略している部分がある。

テロリズムは、絶望し踏みにじられた弱者の武器だ。現世への信頼を失い来世に望みを託す者たちの武器だ。占領はテロリズムを支え、やしない育て、血肉を与えている。(p.43)
(難民キャンプで外出禁止令が出ているときにひとりの子どもが道路を横切るのを見て) このような場合、私の良心はどうしようもなくなって叫び声をあげます。「子どもは子どもだ。たとえあの子が戦争挑発者であったとしても、まだ子どもじゃないか。」...私の良心は、その子を守ろうとします。...でも私は兵士です。命令には従います。そして私は棍棒を振り上げます。的確な打撃に合理的な力をこめ、私は自分の良心を粉砕します。...私は両手に棍棒とライフルを持っていますが、良心はなくしました。あの子はトラックに乗せられて病院に運ばれています。外出禁止令は執行されました。(p.71)
この国での基本的な道徳は律法に記されている。「あなたにとって痛みとなるようなことは、他人にしてはならない」。...私にとって自分の命がかけがえのないものであるのと同じように、他人にとってその人の命はかけがえのないものなのだ。...私たちはこの原則から逃れられない。これを犯せば、罪の意識にさいなまれる。だが、他人を虐げながらも罪の意識を感じない方法もある。道徳律は人間に適用されるわけだから、抑圧されているのは人間以下の存在なのだと思い込めば、罪悪感を感じないでもすむのだ。私たちのあいだでは、アラブ人は人間以下の存在だという教義が大手を振ってまかり通っている。...その一方で、私たちは、...報復に怯えている。相手の人間性を抑えこんで見えなくしてしまえば、抑圧されている側は...動物のごとき理に外れた行動をとるようになる。その結果、私たちはさらに大きな脅威を感じ、以前にもまして相手を痛めつけ、イスラエル人は罪の意識をますます避けるようになり、アラブ人の人間性をどんどん奪っていく。こうして邪悪のスパイラルが描かれていく。相手を動物扱いしているからこそ、他の民族を抑圧することができる。これは私のグリーンラインである。私はアラブ人を動物扱いすることを拒絶する。(p.140)
この他にも、衛生兵として軍で習ったこととイスラエル軍がしていることは相容れない、子どもを撃つのはいやだ、イスラエル軍の発表と実態の食い違いのおかしさに気づき、自分はそれに加担したくないと思った、など、悩みながら自分の行動を選び取って行った人たちの胸のうちが率直に語られて、胸をうつ。

兵役を拒否すると、刑務所に入れられるばかりか(その間の経済的な補償はない)、公務員としての仕事にはつけない、家のローンも受けられない、大学の奨学金もダメ、など、様々な不利益がある。それでも、人間としての良心に背くよりはいい、とこの行動を選び取る人たち。イスラエルにこういう人たちがいることはひとつの希望だと思う。

イスラエル兵役拒否者からの手紙
ペレツ・キドロン編著 / 田中 好子訳

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コメント

この問題は難しいですね。
ユダヤ人には、長期間にわたる迫害の歴史があり、その決定打がナチス、その歴史を繰り返すまいという気持ちが国防と安全がすべて、そのためにはどんな行為も正当化される。

でも彼らは今、アラブの民をかつてのユダヤ人のような目に合わせてる場合もある。
そのジレンマに生きる彼らは過酷だと思います。

でも彼らも戦争の歴史に疲れたのでしょう。
最近じゃ国を捨てる若者も多いらしいです。

投稿: カルロス | 2005.10.17 22:43

カルロスさん、

>でも彼らは今、アラブの民をかつてのユダヤ人のような目に合わせてる場合もある。

この本の手紙のなかでも、そのことについて述べている人がいました。かつて非人間的な扱いをされたユダヤ人がアラブ人を非人間的に扱っているのはおかしいじゃないか、と。
かつて迫害を受けたから何をしてもいい、ということにはならないですものね。パレスチナの人とともに暮らしていこうと考えるユダヤ人とそんなユダヤ人と連帯していけるパレスチナ人が増えてくればいいなぁと思います。

投稿: じゃりんこ | 2005.10.18 21:00

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