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本:「差別表現」を考える by 日本ペンクラブ

筒井康隆氏の断筆宣言が話題になった頃の本で、1995年発行とかなり古いものだが、今読んでもいろいろ考えさせられることがあった。

まず、日本ペンクラブの会員から、今までに自分の書いたものに関して表現を変えるように担当者から言われたことがあるかどうかなど、差別表現をめぐる体験が語られる。たとえば、絵本で、四つの言葉を呪文のようにとなえる、という場面で、「よっつのことば」という書き方にクレームがついたという(p.22)。マスコミは被差別部落に関する表現にとりわけ過敏になっていたことがあるようで、マンガなどでも指が四本見えるような絵は描きかえるよう指示されていたらしい。例えば受話器を持っている指が四本しか見えないような場合でも無理に五本描く(p.117)。

で、1994年、ペンクラブの主催で差別表現に関するシンポジウムが開かれ、そのときのやりとりが収録されている。出席者は日本てんかん協会理事の松友了さん、解放出版事務局長の小林健治さん、作家の井上ひさしさん、ジャーナリストの本多勝一さん、編集者である篠田博之さん。これはとても興味深かった。

無意識に使われた言葉や表現が差別を助長、あるいは強化、固定するという実態がある、と話される松友さん。解放出版社が手狭になり移転しようとしても、貸してもらえないという実態を話される小林さん。「お前らに入ってもらったらビルがケガれる。他のテナントにも迷惑をかける。価値が下がる。」(p.98) 私たちは神保町で本を買ってもそんな実態を知りはしない。

シンポジウムで特に話題になったのはマスコミの自主規制の問題だ。ある言葉を使ったことでどこかから抗議を受け、じゃあ、言葉を言い換えよう、となる。そして言い換えマニュアルが作られていく。

例えば、(中略)「国会を特殊部落にしてはならない」、「東大を特殊部落にしてはならない」、そういう表現に解放同盟は抗議してきました。これは皆さん考えてほしいのですが、そのときに「特殊部落」という言葉は差別語だから、「東大を被差別部落にしてはならない」「国会を被差別部落にしてはならない」と言い換えたとしても、表現の差別性については何ら違いはないわけです。(p.113)

小林さんは、「自主規制で一番問題なのは差別の実態を隠す役割を果たしているということだ」(p.120) といわれる。確かに、言い換えれば差別がなくなるか、というと全然そんなことはないわけだ。差別の実態は厳然としてあり、表現がやわらかくなってカムフラージュされることで問題が隠されてしまう。問題が見えないから、「差別をなくそう」という討論ができなくなっていく。ある言葉を「使わない」ことは、それが表す「現実」を「あっても見ない」ようにする働きをするのではないか(p.203 犬養智子さん)

最初にあげた「マンガで四本指の絵は描かない」などの規制にについて、小林さんはびっくりされたそうだ。解放同盟の幹部に「全部解放同盟のせいにされてますよ。全然こちらが知らないところで。これを正すために、積極的に発言したほうがいいですよ。」と進言したと言う。(p.138)

差別表現をなくすというより差別をなくしていく取組みが大切なわけだが、確かに表現そのものに不愉快になる場合もあるから、「言葉狩り」がすべて悪いというわけでもない。たとえば、英語でいえば、"nigger" という言葉はやはりいやなものだというし、black girl とかならいいわけだ。"Jap"とか「穢多」などの言葉も、言葉そのものに蔑みの気持ちが込められているわけで、そういう言葉はやはり人に対して使うべきじゃないだろう。ただし、そういう言葉を歴史的な説明をするなどの状況で使ったからといってそれが差別にあたるわけじゃない。ただ、明らかな蔑みの意図のない言葉でも、人によっては言われたくない言葉もあるわけで、私も使う言葉には気を配るようにしたいと思う。

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コメント

面白そうですね。じゃりんこさんが紹介されている本って、面白そうなので読もう読もうと思うのですが、、、、手元の本と格闘中です(^^ゞ

森達也さんの「放送禁止歌」って本はお読みになりましたか?
森さん自身、番組制作をされていたころの体験から、マスコミの差別表現に対する自主規制の話しをお書きになっています。あと、森さんは“小人プロレス”についてのドキュメンタリーも制作されて、被差別の立場の方にとってみると、マスコミの自主規制がもっと実質的な差別に繋がっていると言うようなことをおっしゃっています。

私、森達也さん大好きでして。。。。

投稿: tabe | 2006.07.17 00:25

tabe さん、

右のRSSのところにリンクをはってる「情報考学」っていうサイトで「放送禁止歌」も以前紹介されていて、おもしろそうと思ったんだけど、まだ読んでいません。tabe さんもおすすめなら今度読んでみます。森達也さんって名前は知ってるけど、「A」も見てないし...tabe さんが大好きというなら私も好きになるタイプかな(*^^*)。

この本はとてもおもしろかったですが、もう古いので(でも今の状況もあんまり変わってない気もする)、図書館でも行かないと見つからないんじゃないかな。あるいはアマゾンの中古とか。「放送禁止歌」とかを読んでおられるなら、多分、似たような話が繰り広げられている気がするから、わざわざ探して読まなくてもいいかもしれません。ただ、筒井康隆氏とてんかん協会のやりとりとかもうちょっと知りたいとも思いました。

投稿: じゃりんこ | 2006.07.17 16:58

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