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映画「ジェニン、ジェニン」

2002年4月、ヨルダン川西岸地区にあるジェニン難民キャンプで、イスラエル軍による攻撃、虐殺が行なわれた。このときのことを撮影したドキュメンタリーフィルムということで、また生々しい映像を見ることになるのかなぁと思っていたら、撮影されたのは虐殺の後の町。銃弾が降ってきたりブルドーザーが家を壊す場面が撮影されているわけではないが、破壊された家々、瓦礫の散乱する町の様子が攻撃のすさまじさを物語っている。そして生き残った人々がその攻撃の様子を語る。「一番ひどい経験は自分の腕のなかで人が死ぬことだ...」「こんなやつらと本気で共存していこうと思っていたんだ...」

撮影したのはイスラエルに住むパレスチナ人俳優・映画監督のムハンマド・バクリさん。彼が来日し、昨日、ひとり芝居が行なわれた(これは見にいけなかった)のだが、今日は彼の監督した映画「ジェニン、ジェニン」ともう一本が上映され、その後バクリさんを囲んでシンポジウムが行なわれた。

やっぱり製作者の話を直接聞けるのはおもしろい。バクリさんは最初、主催者側の要望によりアラビア語で話し始めたが、会場での反応などを見て途中で英語に切り替えられたため、本当に直接話を聞くことができた。

彼の友人である女優が彼のすぐ隣でイスラエル軍に撃たれて亡くなったことがこの映画を撮るきっかけになったのだという。最初、ジェニンに入ったときは、その惨状を見て声もでなかったそうだ。でも、この様子を伝えたい、イスラエルの人に知ってもらいたい、と思って撮影を始めた。撮影は4日間で終え、1ヶ月で編集した。フィルムにはキャプションもナレーションも入らない。ただ、現地の人のインタビュー映像(インタビューの字幕は出る)と町の様子がつなぎあわせてあるだけだ。死体や血が画面に映るわけではなく、できるだけソフトに作ろうとしたのだと言う。彼は、イスラエルの人たちはこの実情を知れば、このために立ち上がるだろうと思ったのだそうだ。しかし甘かった。エルサレムで上映したとき、会場は騒然とした雰囲気になり、彼を非難するものが出てきた。イスラエル政府は「これはパレスチナサイドによるプロパガンダである」とし、上映禁止措置をとった。そして、上映禁止措置のため、映画を見ることもできないまま、人々は「ジェニン、ジェニン」はイスラエルのイメージを悪くするためにパレスチナ側が意図的に作ったものである、と信じ込まされていく...

映画を見れば、それが作為的に作られたものでないことはわかる。だからイスラエル政府は人々にこの映画を見せたくないのだろう。息子が撃たれ、死んでいくというのにどうすることもできなかった、と語る医師。手を撃たれ、ショックのあまり倒れたところ、イスラエル兵に「失せろ」と言われ、「立ち上がれない」と言うと今度は足を撃たれた、と語る老人。イスラエルへの憎しみとパレスチナ人としての誇りを語る少女。...ただ、イスラエルの人たちにとって信じたくない映像ではあるだろう。自分の息子は国を守るためにテロリストと戦っているのだ。...そういう思い込みが強いと、こんなのはインチキ映像だ、と言いたくなるだろう...

イスラエルに住み、イスラエル国籍を持っているパレスチナ人というのはイスラエル国内でも国外でも微妙な立場にあるらしい。イスラエルでは二級市民としての扱いを受けている、ということだったが、バクリさんもテルアビブ大学を卒業して映画監督、俳優として仕事をされてこられたわけだから(もっとも、「ジェニン、ジェニン」を撮ってからは、俳優として仕事をするのはむずかしくなったらしい)、市民としてどういう制限があるのかを聞いてみたかった。バクリさんにとって母語はアラビア語、でもヘブライ語は美しい言語で、ヘブライ語には郷愁を感じると言う。また、パレスチナ人ではあるが、ムスリムではないようだ。コミュニストとして、宗教にはあまりいい印象を持っておられないようだった。

バクリさんは「イスラエルとパレスチナの共存を願っている」と話された。そして「ハイファでは確かにイスラエル人とパレスチナ人とが一緒に住んではいるが、それは対等な立場での共存ではなく、主人と奴隷の関係での共存だ。対等な立場での共存ができる、民主的な国に住みたい」と言う。バクリさんのような微妙な立場の人が、パレスチナとイスラエルの本当の意味での共存の突破口になればいいと願う...

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映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

じゃりんこさん、ハマスがファタハの情報将校の子どもを殺す、もしも本当だったら残念です。

投稿: axbxcx | 2006.12.11 23:22

axbxcx さん、

全然知らなかったので調べてみました。
http://www.cnn.com/2006/WORLD/meast/12/11/gaza.shooting.ap/index.html
これによると、
Hamas denied involvement and denounced the bloodshed.
また
Hamas spokesman Fawzi Barhoum condemned the attack as an "awful, ugly crime against innocent children." He said the assailants were undermining Palestinian interests by creating chaos and confusion.
となっていますから、ハマスは関与を否定しています。
信じたいところです...
でも、誰が、何のために、でしょうね...

投稿: じゃりんこ | 2006.12.12 00:24

じゃりんこさん、9.11そのものがそうなように真実は霧の彼方ですし、何から何まで情報合戦の世の中になってしまったような気がします。 誰でも何でも言える、書ける、そのために逆に本当のことを理解するのがよけいに難しくなっている、それがグローバリゼーションの最大の問題かも知れません。

100人の村ではありませんが、世界で字が読めるのは3割、大学を出ているのは1%。 自分が多数派なのはアジアの人間という括りをしたときくらいしかありません。 難しい世の中です。

投稿: axbxcx | 2006.12.12 07:25

axbxcx さん、

私にはハマスがそんなことをしたとは信じられません。ハマスのスポークスマンの言っているように、何者かがパレスチナの内部分裂をねらってやっているように思えてしまいます。まあ、私の見方は中立的とはいえないかもしれませんが...
「麦の穂をゆらす風」でも、結局、内戦がひきおこされて同胞同士が戦う羽目になったわけですが、パレスチナでそういうことにならないように祈ります。

投稿: じゃりんこ | 2006.12.12 20:19

じゃりんこさん、殺された3人のお父さんが情報将校だったというところが一つの鍵なんだろうと思います。 BBCにはそのお父さんについて"Mr Balousheh is considered a leading enemy of Hamas. He was the main interrogator of Hamas members during the 1990s crackdown on the Islamist movement."とありましたから、政治的と言うよりも個人的な恨みかも知れません。

http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/6167835.stm

投稿: axbxcx | 2006.12.13 03:24

axbxcx さん、

私は、だからハマスがやったとは思えないんです。そんなことをしたら疑われるのはまずハマスですものね。そして、その情報将校を殺したところで、状況の改善が見込めるとも思えないですから。ハマスのメンバーの誰かが衝動的にやった、という可能性が絶対にないとは私にはいえないですが...ただ、日本にいる私達には、「ハマスはテロ集団」というイメージで伝えられていることが多いですが、この間の選挙で勝利したことからみても、地元の人たちの信頼を集めている組織のようです。

この事件のその後の報道がないか調べてみましたが、ガザで12日、ハマスとファタハの治安部隊による銃撃戦が発生し、双方ともに「相手が先に発砲した」と非難している、というニュースが見つかっただけでした。
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2006121201000776.html
こういう状態を望んだ人がいるんじゃないかなぁと思ってしまいます...ハマスは内部調査をしたうえで冷静に事態に対処してほしいです。

投稿: じゃりんこ | 2006.12.13 20:40

じゃりんこさん、何だか申し訳ないような…。 まあ人も組織も多様でしょうから、レッテルはできるだけ貼らないようにと思っています。

国際ニュースに関しては、やはり田中宇の国際ニュース解説が参考になります。

http://tanakanews.com/

投稿: axbxcx | 2006.12.14 14:24

axbxcx さん、

何を申し訳ないと言っておられるのかよくわからないのですが(^^;)、このことは書いていただいてよかったです。ニュースもきちんと見ていない私なので(^^;)...以前は「パレスチナ」をキーワードにグーグルアラートを設定していたのですが、結局、他のメールに埋もれて読まずにすませてしまったりするのでやめてしまいました。でも、何らかの方法で、自分で新しい情報に接するようにしていないといけないですね。

投稿: じゃりんこ | 2006.12.14 22:58

じゃりんこさん、アル・ゴアの"An Inconvenient Truth"(本)を読んでいたら、ネガティヴ・キャンペーン(Negative TV ads)のようなことがイヤで、一度は政治家になるのをやめようと思ったという話が出て来ました。 今回のタウンミーティングも本当に噴飯モノだと思いますが、いずれにせよ、こちらが勉強してできるだけ騙されないようにするしかないと…。

ということで、怪しいニュースをきちんと確認しないまま書いたのは申し訳なかったかなと…。

投稿: axbxcx | 2006.12.14 23:35

axbxcx さん、

そういうことでしたか。いえ、私としては、書いていただいたおかげで少しは情勢に触れることができてよかったです。いつもいろいろ教えていただいて本当にありがとうございますm(^^)m。

投稿: じゃりんこ | 2006.12.14 23:50

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