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甘える

今学期はどうも放送大学の勉強に身が入らなくて、試験前の今になってあわててテキストをこなしている。この間ようやく「人格心理学」のテキストをみんな読み終わったのだが、そのなかにサイコセラピーについての講義があった。そのときの講師の丸田俊彦先生はアメリカで開業されていたことがあり、あるとき相談に見えた日本人の奥さんとアメリカ人のご主人が、娘さんについて話すとき、「甘え」については適切な英語がないのでご主人が奥さんに「なんて言うんだっけ?」と聞いてそこだけは日本語で「甘える」と表現されたのだと言う。

「甘え」にあたる英語は本当にないんだろうか。アメリカ人は甘えないかというとそんなことはない。うちのクラスの子どもAは、保育者のMKが好きだ。MKは0歳児前半クラスからうちの0歳児後半クラスに移ってきたので、Aとのつきあいが長い。早番の私と中番の保育者MSだけのときにはAは普通に遊んでいるのだが、遅番のMKが来ると、泣き出して彼女の後追いをする。これはまさしく「甘えている」状態だと思うのだけど、こういう状態を何と言うのか、と尋ねると、「AはMKのほうが好き (prefer)だ」とか、 preference, favoritism などという言い方をされる。でも、これらは単に「より好き」というだけであって、「甘え」というのとは違うと思う。そこで、prefer だと、「りんごよりみかんが好き」みたいに果物にも使えるけど、日本語の「甘える」という言葉は、人間にしか使えない言葉なんだ、そういう言葉はないのか、と尋ねてもみんな思いつかない。

じゃあたとえば、おとうさんがすごく厳しくて子どもはおとうさんの前ではいつも緊張してしまうけど、おかあさんはそんなに厳しくないから子どもはリラックスして、自分が出せるし、いろいろ要求したりわがまま言ったりできるとする。そんな場合、子どもはおかあさんに対してどうしていると言うのか。

あるいは、子犬が、飼い主が帰ってくると急いで迎えに出てきて、飼い主のひざにすわり、じゃれついたり、クンクン鳴いたりする。そういう行動を何と言うのか。

こういう質問を何人かのアメリカ人にしてみたけど、説明のときに使った言葉を繰り返される程度(たとえば、"The child is more comfortable with mom."(子どもはママといるほうが居心地が良い) とか、"The puppy is whining."(子犬がクンクン鳴いている) とか)で、「甘え」にぴったりする言葉は出てこない。みんな私が何を言わんとしているのかはわかってくれたようだけど、それにぴったりの言葉は思いつかないようだ。和英辞典で「甘える」をひくと、nestle とか fawn などという訳語が出てくるが、「一般的に使う言葉ではない」と言われた。depend on (頼りにする、依存する)というのもちょっと違うだろう。act like a baby ( 赤ちゃんのように行動する)では、赤ちゃんには使えないし。「甘やかす」spoil という言葉はあるのだけど。

ネットで調べてみて(たとえばここ) も、「甘える」にぴったりあてはまる英語というのはなさそうだ。甘えは決して日本人に特有のものではないけど、英語を使う人たちは、こういう状態にあまり注目してこなかったらしい。私がいくつかの例をあげて説明すると、結構「なるほど」という感じでおもしろがってくれて、あまりそういう状態の共通性みたいなことについて考えたことはないようだった。どうして英語圏の人はあまり「甘え」に注目してこなかったのかはわからないけど、甘えられる関係っていうのは大切なんじゃないかな、と思う。本当に甘えることのできる相手がいる人は心が安定しているものだと思う。

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英語」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。

私も試験勉強が進みません…。通信課題提出以降、ほぼ手つかずの教科が2つも。この週末でなんとか、、、する、、、つもりです。はあ。

英語に「甘え」って言葉がないというのは意外です。
日本人の中では「甘える」状態を良く思わない人の方が多い気がします。「甘えるな!」とか、人を批判する時に使う方が多いですし。
「甘え」のマイナス面に注目してきた日本人って、英語圏の人に比べて“厳しい”のかもな、なんて思いました。

それと、以前、ポルトガル語から日本語への翻訳を人にお願いしたとき、どうしても訳せない言葉があり困りました。日本語で言うと「理解したうえで、信頼し尊敬してるから、尊重している」という動詞がポル語にはあるそうです。「敬愛」とも違うらしく、結局その時は「尊重」を使いました。

言葉って、その国の人がどこに意識を置いてるかが分かって面白です。
と、言っても私は日本語おんりーですが。。。。

投稿: tabe | 2007.01.26 16:13

tabe さん、

そっちも苦闘中ですか(^^;)。私は「比較政治学」は捨てよう、と決めたところ、試験案内が届いて、テキスト持込の選択式だというのでやっぱり受けようと思いなおしました。でも何もしてないんですが(^^;)...

>英語に「甘え」って言葉がないというのは意外です。

ねぇ、私もそう思っていろいろ聞いてみたんだけど、やっぱりぴったりの言葉はないみたい。そういう行動がないわけじゃないのにね。

日本人は甘えに対して厳しい目で見る人もいるけど、甘えの大切さをわかっている面もあると思います。私は子どもの頃、父にも母にもあまり甘えられなくて、どこか不安定なところを持っていたと思います。おたがいに甘えられる関係の人に出会ってずいぶん楽になったんですが、残念ながら今はいないので、時々、甘えられる人がいるといいなぁと思います。

>言葉って、その国の人がどこに意識を置いてるかが分かって面白です。

同感。日本語だと「あなた」を意味する言葉は「おまえ、君、おたく、自分」などいろいろあるけど英語だと日常的に使われるのは you だけ。これは日本では相手との関係がどういうものであるかをすごく意識するからだ、とか、アラビア語にはらくだに関する言葉がすごく多いとか。

私は京都から東京に来たとき、「~しはる」という言葉が使えなくて、最初、コミュニケーションに違和感を感じました。日本国内ですらそんな状態なんだから、外国語でスムーズにコミュニケーションできなくても当然ですね(^^;)。

投稿: じゃりんこ | 2007.01.26 20:34

 非常に前の日記のコメントで申し訳ありません。初めまして、綵華といいます。

 ある文書を英語になおしていて、甘えるな! とは英語でなんというのか検索していたらここに辿り着きました。甘やかす、というのが英語にないというのは驚きです。私も知人に聞いてみようと思います。
 そして、"甘やかす"はspoilという表記を見たときに、では、don't spoil yourselfで、一応の意味は通じるのではないかと思い、私は一応そういう形で英訳しました。一応ここでインスピレーションを貰った形になったので、感謝を残しておこうと思います(合っているかどうかはかなり疑問なので別として^^;)

 ありがとうございました♪

投稿: 綵華 | 2008.09.04 18:20

綵華さん、はじめまして。
以前の日記にコメントをつけてもらうのもうれしいですよ(^^)。

「甘やかす」という言葉は英語にあります。ただ、spoil は悪い意味で使われるとは限らず、誕生日なんかに家族にちやほやしてもらって "They spoiled me." なんて使われ方をしたりもします。この場合は、ぜいたくさせてもらったわ、よかったわ、という感じです。
だから、"Don't spoil yourself." という言い方で「甘えるな!」というのは通じないような気がします。その言葉の使われている状況がわからないのでなんともいえませんが、Don't depend on others.(他人をあてにするな)とかのほうが近いかも?
でも、とにかく、むずかしいですね、訳すのは...。

投稿: じゃりんこ | 2008.09.04 20:39

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