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本「一瞬の夏」by 沢木耕太郎

カシアス内藤という混血のボクサーが、いったんボクシングから遠ざかった後、復帰をめざして奮闘する物語。「物語」と書いたが、フィクションではない。著者の沢木さんは、ボクシングの興行などに関しては素人であるにもかかわらず、カシアス内藤への思い入れから深く関わることになる。

私はボクシングに興味はないし、数年前、映画「ミリオンダラー・ベイビー」を見たとき、私はボクシングは好きじゃないんだなぁ、と思った。それなのに、この本には、ぐいぐい読ませる力がある。まるで映画を見ているように情景が浮かぶ。でも、映画とちがって、著者の心の中が語られる。著者の目を通して、周りの人の心情が語られる。ひとりのボクサーをとりまく様々な人たち。ひとりひとりそれぞれの人生がある。心の中の思いと、現実のできごとは、必ずしもうまくかみあわず、映画のようにストーリーを脚本家が決めるわけにはいかない。事実は小説より奇なり、とはよくいったものだ。しかし、その事実をこんなに生き生きと書けるのは沢木さんならではだろう。こんなブログを書いていても、事実や思ったことをちゃんと書くのはむずかしい、といつも感じている(^^;)。

話のメインストリームとは関係がないが、沢木さんが、「外国にいて気分が落ち込んでしまった時には市場を歩くに限る」と書いておられたのは、そうだろうな、と思ってしまった(^^)。私も市場をウロウロするのが大好きだ。これを読んで韓国の東大門の市場にも行ってみたいなぁ、と思った。でも、この本で書かれているのは10年以上も前の話だから、今はずいぶん感じが違っているのかなぁ。

一瞬の夏
沢木 耕太郎著

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書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

じゃりんこさん、すごいでしょ? 鎌田彗の「自動車絶望工場」と並んで、佐藤郁哉がフィールドワークの推薦図書に挙げているのもわかります。 インタビューでこんなのが書けたらいいだろうなあ。

昔からStuds TerkelとかBob Greeneなんかが好きだったんですが(重さがだいぶ違いますが)、いま考えてみると結局聞き取り・フィールドワークが好きだったんだなあと思います。 初めてフィールドノーツと呼べるようなものをつけたのは1994年ですが、そのときはマレイシアの工場を回っていました。

今日はDVDでキューバ映画「バスを待ちながら」を観ました。 去年の12月に映画館で観て気に入ったのでDVD買いました。 やっぱり好みの映画です。

投稿: axbxcx | 2007.04.06 23:48

axbxcx さん、

ええ、ほんと、すごいです。
沢木さんはやっぱりフィールドノートのようなものをつけておられたのでしょうかね。でないと、ここまで克明に思い出せないですよね。

スタッズ・ターケルは、読みかけたのですが、結局やめてしまいました(^^;)。私は著者が一歩ひくスタイルよりも沢木さんのようなスタイルが好きなんだと思います。

投稿: じゃりんこ | 2007.04.07 00:11

"The Good War"とか"The Great Divide"もダメでしたか? 一歩引くというよりも、一人ではなくたくさんの人に語らせることで全体像を明らかにしようとしているからだと思います。 ただ実はそこに強い意思、悪く言えば誘導がある、そこを佐藤郁哉はついていました。

私のフィールドでの仕事はも個人に語ってもらいながらも、結局は村全体、地域全体のことを明らかにしていかなければならないので、必然的に一人に入れ込むことはできず、Studs Terkelに近い形にならざるを得ないのだろうと思っています。

個人を相手にするか、社会を相手にするかの違いとでも言うか…。

投稿: axbxcx | 2007.04.07 08:35

axbxcx さん、

読みかけたのは「よい戦争」でした(^^;)。ちゃんと原書で読めばいいのかもしれません。

アマゾンに書評を書いておられたのですね。最初、レビュアーの名前を見ずに読み始めて、「...スタッズ・ターケルは第三者的に見えて実は極めて参与の度合いが高いのではないか」と読んだところで、え?と思って名前を見たら、axbxcx さんでした。あの本の書評を書いている人は全員☆5つですね。

「仕事!」っていうのはちょっと読んでみたい気はします。

投稿: じゃりんこ | 2007.04.07 16:04

じゃりんこさん、スタッズ・ターケル、日本語では読んだことも見たこともありませんが、多分、日本語ではニュアンスが伝わらないでしょう。

エスノグラフィーと同じで、本人がどのようなしゃべり方をしているか(口語、方言、調子など)を再現できるかどうかが命だからです。 綴り一つ取っても、いいろ工夫されています。 Stephen Kingの小説もそうですが…。

私は基本的に翻訳本はダメです。 科学書とか中身がわかればよいものはいいでしょうが…。 といいつつ、キューバ映画やメキシコ映画を字幕で観ている訳ですが…。

投稿: axbxcx | 2007.04.07 18:29

axbxcx さん、

私も翻訳ものは苦手です。でも、マイケル・クライトンとか、「ダ・ヴィンチ・コード」とかは、翻訳でも十分に楽しめましたが。

夫はスティーブン・キングが好きでしたが、やっぱりペーパーバックを買っていました。分厚い本は適当にカットして分冊にして通勤に持っていっていました。

私はというと、日本語の本を読むのも遅いもので、なかなかペーパーバックに手が出せずにいます(--;)。基地の図書館で本はいくらでも借りられるのですが、絵本やビデオしか借りたことがありません。今度、スタッズ・ターケルをさがしてみます。

投稿: じゃりんこ | 2007.04.07 20:10

ご主人のお気持ち、よくわかります。 本当に読み出したら止まらない…でした。 "The Green Mile"みたいに分冊で出されると、もう待ち遠しくて、待ち遠しくて…。 出たらすぐロサンジェルスやジャカルタの空港で買ったことを思い出します。

Stephen Kingも、結局は「普通の人々」の人物描写に引かれたのだろうと思います。 沢木耕太郎の「世界は『使われなかった人生』であふれてる」なんかもタイトルだけでドキッとしましたし…。

投稿: axbxcx | 2007.04.08 07:39

axbxcx さん、

夫の場合は基本的に日本語で読んでいましたが、英語の勉強のためと、たぶん翻訳で満足できない部分もあってペーパーバックを買っていたんだと思います。そうそう、グリーンマイルは分冊でしたね。昨日、なんだったっけ、と思って本棚をのぞきに行ってしまいました。

今日は「パラダイス・ナウ」と「約束の旅路」を見てきました。「パラダイス・ナウ」は「普通の人」が自爆攻撃に向かおうとする話でした。パンフレットを買ったのですが、そのなかで、この映画の監督アサド氏とスレイマンという監督の撮影方法を対比して、スレイマンは「対象から一歩ひいて見ている感じ」で、この監督が「最大限に観客が感情移入できるように、ある人間の体験を伝えたい」としているのとは違うね、と話している人がいておもしろいな、と思いました。

投稿: じゃりんこ | 2007.04.08 20:02

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