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映画「約束の旅路」Va, vis et deviens

中東が舞台になっている作品は、どうしてもその政治的スタンスが気になってしまうけど、この作品にはほとんど政治色がない。ただ、ユダヤ人がこの地に国を持つことは自然なことだと考えられているようではある。でも、主題は政治的なことではなくて、自分は何者なのか、そして家族とは、というようなことになるのだろうか。

原題は「行け、生きろ、そして生まれ変われ」という意味らしい。1984年、スーダンの難民キャンプで、ある母親が9歳の息子をそう言って送り出した。エチオピアにいるユダヤ人をイスラエルに帰還させる「モーゼ作戦」が実施されていたのだ。母親はユダヤ人ではなかったからイスラエルに行く資格はない。でも、息子だけでもいい暮らしをしてほしい...その結果、息子は自分をユダヤ人と偽って生きなければならないことになった。

その息子シュロモは、裕福な白人家庭の養子となる。彼の養父母となったふたりが本当にいい人で、シュロモに対し、自分の本当の子供達に対するのと変わらない愛情を注ぐ。特にこのおかあさんの接し方には胸を打たれる。しかし、シュロモにとって、母は難民キャンプにいる人であり、養父母に感謝の気持ちは持ちつつも、養母をママと呼ぶことはできない。ユダヤ教の律法を学び、それに精通するようになっても、彼はユダヤ人ではない...のだろうか。そして、皮膚の色が黒いことで差別を受け続けることになる...

ひとりの人間が、迷いながら成長していくさまや、イスラエル社会にもいろんな人がいるのだなぁ、ということを興味深く見ることができ、2時間半の上映時間も長いとは感じなかった。ただ、脚本はちょっと都合よくできすぎかな、とは思う。

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コメント

こんばんは!じゃりんこさんの場合、学生証が映画館でヒジョーに役立ってるような・・・(笑)
ところで、関係ないけど去年、ニューヨークに行った時にブルックリンはユダヤ人だらけ(なんて言っては失礼ですけど)でした。
それも過去から抜け出してきたような黒い帽子に長く伸ばしたもみあげ、黒いスーツ姿なので最初はとっても戸惑いました。自分自身がユダヤ人であると誇りと自信に満ちてるような感じ。まさに人種のるつぼと言われるニューヨークですが、現代という時代の大都市の中でユダヤの伝統にのっとって厳格なユダヤ社会を形成している彼らに、わずかな恐れと崇拝を感じました。宗教って人が生きるアイデンティティなのだと。当たり前だけど。
単一民族国家の日本で生まれ育った私には目からウロコの経験でした。

投稿: viviarosa | 2007.04.12 20:30

viviarosa さん、どうも(^^)。

ええ、学生証、とっても役にたってます(^^)。国際学生証って言うのも作れるから、ヨーロッパとかに行く場合は役にたつこともあるようです。ただ、このところのユーロ高、ポンド高の話を聞いて、ちょっとどうしようかと思っているところです。私、ニューヨーク、行ったことないんですよね。アメリカは他にも行きたいところがあるので、アメリカもいいなぁと思ったり。

自分が何者であったとしても、それに誇りを持つことができるならいいな、と思うんですが、アメリカのユダヤ人も一枚岩ではない、というようなことを聞いたことがある気がします。
日本も厳密には単一民族国家ではないわけですが、確かにそうは見えにくいですよね。それだけに少数者の声は無視されがちになるので、アメリカ以上に気をつけなければいけないのかもしれません。

投稿: じゃりんこ | 2007.04.12 21:50

じゃりんこさん、「約束の旅路」、今日ようやく観て来ました。 「脚本はちょっと都合よくできすぎかな」という気持ち、よくわかりました。 大変な苦労をしたのは間違いないにせよ、やはり主人公は例外的に幸運だった訳で、大多数の人たちは…ということを考えずにはいられませんし、どうも感情移入できないところがありました。 一方、彼を取り巻く3人の母親と奥さんになる人、彼女たちの思いは痛いほど伝わって来ました。 特に白人のお母さんになる人の役柄は素晴らしかった。 それに比べると男たちはまあ身勝手と言うか、自分の価値観でしか動いていないと言うか…。

アメリカでルームメートだったユダヤ系の友人から、息子さんのバール・ミツバ(ユダヤ教の13歳の成人式)に誘われているのですが、映画の中のバール・ミツバもなかなか凄かったですねえ。 予定が合えば行きたいのですが…。

ところで、日本人の単一民族説については小熊英二の「単一民族神話の起源 <日本人>の自画像の系譜」を読めば明らかと思います。 この映画もそうですが、結局はアイデンティティーの発見あるいは再確認でしょうか。

投稿: axbxcx | 2007.05.06 00:21

axbxcx さん、どうも(^^)。

ええ、あのおかあさんは素晴らしい人でしたよね。
私のなかには、イスラエルの人に対する偏見のようなものがあったかなぁと思わされました。

学生時代のルームメイトとは深いつきあいになるのでしょうね。
バール・ミツバ(っていう言葉は全然知りませんでしたが)、行けるといいですね。

「単一民族神話の起源」はちょっと読んでみたいな、と思います。以前、近所の図書館で探したらなかったのでそのままになっていました。
先日、「忘れられた日本人」を読みました...といっても結構はしょってしまいましたが(^^;)。盲目の乞食の人の話や漁師の人の話のように、その人の言葉がそのまま聞き書きされているような話が生き生きとしておもしろかったです。日本もずいぶん様変わりしたんだなぁ、と思いますが、夫の田舎の雰囲気を思い出したりしました。

投稿: じゃりんこ | 2007.05.06 08:27

じゃりんこさん、ケニアで稲作改善の普及をやっていたのですが、正条植え(苗を乱雑に植えるのではなく縄を使って整然と植える)や塩水選(塩水を使って重い籾種だけを使う)が日本で導入されたのは明治も終わりごろだというのが、宮本常一を読んでいてわかりました。 少なくとも数百年の歴史はあるものと信じ込んでいました。 「忘れられた日本人」では島根県田所村の田中梅治翁の話に出て来ます。

府中市郷土の森博物館で宮本常一の生誕100年の展示をやっていますが、6月23日・24日には坂本長利一人芝居土佐源氏(「忘れられた日本人」に収録)もあります。 往復はがきで応募して抽選という形です。 私はガーナに出稼ぎの予定のため、残念ながら行けませんが…。

単一民族神話ですが、大日本帝国が多民族論の上に成り立っていたということ、この本を読むまで迂闊にも知りませんでした。 また明治の初期、日本人が能力的にも体力的にも西欧に劣ると思った人たちが鎖国的な政策・単一民族を唱え、逆に自身を持った人たちが開国・多民族を唱えたというのも面白いと思いました。

最近、思い切って宮本常一著作集(48巻・別巻2巻が出ていますがまだ未完、未来社)、鶴見良行著作集(全12巻、みすず書房)を入手しました。 網野善彦著作集(全18巻・別巻、岩波書店から間もなく出ます)も買うことにして予約しました。

投稿: axbxcx | 2007.05.06 09:36

axbxcx さん、

正条植えの話、覚えています。私もへぇ、そうだったんだ、と思いましたが、農業にかかわっているわけではないので、それ以上のものはないんですが(^^;)。女達の猥談みたいなのは今に通じるものを感じました。

土佐源氏の話はインパクトがありますから、一人芝居もおもしろそうですね。

相変わらずたくさんの本を読んでおられるのですね(^^)。
私は最近本を読むのは、職場の休憩時間(これもまわりに誰かいるとついおしゃべりになってしまいます)とか電車ででかけたときくらいになってしまいました(^^;)。

投稿: じゃりんこ | 2007.05.06 10:31

じゃりんこさん、買っても読むとは限らないのですが、いつでも読める体制というのが大事と言うか。(^_^;

佐野眞一の本を読むと、土佐源氏にはだいぶ脚色もあるようで実は乞食ではなかったようですが、まあそれはそれとして…。

投稿: axbxcx | 2007.05.06 11:12

axbxcx さん、

私の場合、いつでも読めると思うとかえって読まなかったりして(^^;)、図書館で借りて返却期限があるほうが読む動機付けになったりすることがあります。

>土佐源氏にはだいぶ脚色もあるようで実は乞食ではなかったようですが、

そうなんですか。脚色はあのおじいさんがしたのか宮本常一がしたのかどちらなんでしょうね。おじいさんは、脚色してる、という意識なく話におひれがついて、という感じなんでしょうかね。

投稿: じゃりんこ | 2007.05.06 21:17

じゃりんこさん、答えは書いてありませんでした。(^_^)

桜井厚「インタビューの社会学 ライフヒストリーの聞き方」を引用すれば、ライフストーリーは「現在の時点からの語り手の解釈」であり、「それぞれの価値観や動機によって意味構成された、きわめて主観的なリアリティ」であるということでしょう。 そして「他者にとって刺激的で、共感を呼び、興味を引く経験であるかどうか」も妥当性の基準になるだろうと書かれています。

投稿: axbxcx | 2007.05.06 22:42

axbxcx さん、

そうですか。
宮本常一が故意に脚色するとはちょっと考えにくいので、あのおじいさんにとっては真実の話、ということになるのでしょうね。確かに「他者にとって刺激的で興味をひく経験」(^^;)だと思います。

投稿: じゃりんこ | 2007.05.06 23:02

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