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放送大学面接授業「テレビは戦争をどう伝えてきたか」

講師は、長年NHKのドキュメンタリー番組の製作にたずさわってこられた桜井均さん。昨日、今日と5時間の授業(1時間は135分)で、合計20本くらいのドキュメンタリー作品(番組全部ではなく、一部を編集したものがほとんどだけど、長いものは1時間くらいのものも)を見、まるでドキュメンタリー映画祭に来ている気分。ベトナム戦争の従軍記者による映像やイラク戦争について、PKOの限界(アメリカのダブルスタンダードがよくわかる)、第二次世界大戦に関するものーB、C級戦犯のこと(朝鮮人を含む)、天皇の戦争責任のこと、原爆に関するもの...と、どれも興味深い内容で、ちょっと他では見られないんじゃないかな、と思えるフィルムもあり、とても中味の濃い2日間だった。

特に私が興味をひかれたのは、被爆者の人たちの描いた絵だった。被爆まもない広島や長崎の映像もあるのだが、それ以上に、被爆者の人たちの描いた絵には強烈な印象を受けた。黒こげの女性が子どもを抱いて走った姿勢のまま死んでいる。炎を出して燃えている5本の指、そこから灰色の液体が流れている...カメラが捉えることのできる映像は限られている。たくさんの死角がある。被爆した人たちの記憶のなかにある映像はもっと鮮烈なイメージを持っていたりするのだ。そして、それらの絵を見たニュージーランドの女性が心を動かされ、核兵器をなくすために生きようと思った。彼女は、ハーグの国際法廷に「核兵器は違法だ」と提訴した。

もうひとつ、原爆を落とした人の証言は衝撃的だった。ニューヨークのスミソニアン博物館で、原爆投下に使われた戦闘機エノラ・ゲイを原爆投下後の町の写真などとともに展示しようとしたところ、ものすごい反対運動が起きた、という話は聞いたことがあった。しかし、実際に投下した人が、投下した数日後に長崎に行き、その町の様子を見て、「投下してよかったと思った。自分の行動に満足した」と話す映像はショックだった。本当にそう思ったの?そんなはずはないでしょう...でも、この人はそう思うことで自分を守らなくてはいけない...原爆投下のおかげで日本が降伏し、たくさんの命が救われた、と考えているアメリカ人や中国人はたくさんいるのだ...

上官の命令でしかたなく、捕虜に対して手荒な扱いをした。死なせてしまった。原爆を投下した。ホロコーストが行なわれていたなんて知らなかった。...はたしてそれでいいのか。確かに上官に逆らえない状況ではあっただろう。だが、それで自分の罪がすべて許されるとひらきなおっていいのか。ホロコーストなんて知らなかった、ですまされていいのか。知ろうとすること。自分の良心の声を聞くこと。考えるのをやめないこと。...

知らなかったいくつかのことを知ることができたし、考えさせられることも多かった。

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学問・資格」カテゴリの記事

コメント

じゃりんこさん、こんにちわ。 こちらは約120人を対象にした5日間のワークショップが終わり、ホッとしたところです。

私も最近、個人の責任、個人でできること…を考えていました。 そのキッカケになったのは「父親たちの星条旗」の原作です。 親しくしていた衛生兵が拷問されて亡くなっている姿を見てしまったこと、(基本的には)そのために主人公は4年間、毎晩うなされ、涙を流すことになります。 その拷問の内容というのは考えられ得る最悪のものと言ってよいでしょう。(バクダッドで拷問されて捨てられている死体というのも、目を抉られ、電気ドリルで足に穴を開けられ…、というものらしいですが…。)

衛生兵を狙い撃ちにしたことについては、兵隊がジュネーブ条約を教えられていなかったからかも知れません。(日本の陸軍の軍医や看護婦も赤十字は付けていましたが…) けれども、同じ人間に対してそのような拷問をしてしまうというのは、やはり個人の責任もあるだろうと…。 いずれにせよ、B級・C級戦犯の多くはそういうレベルの話だったのかも知れません。

太平洋戦争に突っ走って行った人たちの責任が大変重いことは言うまでもありませんが…。

投稿: axbxcx | 2007.05.21 04:27

axbxcx さん、こんにちは。一息つかれましたか(^^)。

B、C級戦犯については、フランキー堺の「私は貝になりたい」と、「モンテンルパへの追憶」「チョウ・ムンサンの遺書」というのを見ました。すべて一部ですが。

フィリピンのモンテンルパ刑務所でたくさんの日本人兵が服役していて死刑を待っていたわけですが、日本人による助命嘆願が行われた結果、フィリピン大統領の恩赦で釈放された、という話で、「でも、これを、ああよかった、ですましていいのだろうか」と講師の方が言われたのです。捕虜に対するひどい扱いがあった、そのことに何も触れずに、助かった、よかった、という美談にしてしまうのは何かがぬけおちているのではないか、と。

確かに上官の命令は絶対だったし、自分のすることに心を痛めた人も少なくなかったでしょう。でも、そこで良心の声を聞いていたら自分の身が危うくなる。だから考えるのをやめてしまう。人間は弱いものだし、そういう人を責められないと思いますが、でも、自分のしてしまったことを不問にすることはできないとも思います。信じられないような拷問をしてしまう、というのは、考えるのをやめてしまったときに歯止めがきかなくなるのでしょうかね。敵を人間とは思わない、そういう考え方に慣れてしまったら(慣らすように自分で仕向けるわけですから)なんでもできるのかもしれません。

泰緬鉄道の建設に捕虜を使うことについて、「ジュネーブ条約に違反する」という指摘に対し、日本は批准していないからいいんだ、と、捕虜に過酷な労働をさせていた、という話も聞きましたが、ジュネーブ条約について知っていた人は上官でもそれほどいなかったのではないか、と思ってしまいます。知っていたとしても、守ろうという気持ちはなかったのでしょうから、一般の兵隊はまったく知らなかったでしょうね。

というわけで「戦場にかける橋」のDVDを見ようと思っています。

投稿: じゃりんこ | 2007.05.21 17:51

じゃりんこさん、シベリアに抑留された高級参謀は抑留がジュネーブ条約違反(当然ですが…)と認識していたようですから、上は知っていたのでしょう。 それに陸軍の軍医・看護婦は赤十字章を付けていたのですから…。 けれども「硫黄島からの手紙」にもあったように、衛生兵を狙い撃ちにしていたのは確かなようです。

また前にも書きましたが、アメリカの衛生兵が欧州戦線では武器を一切携行せず、ドイツ軍の負傷者も手当てしていたのが、太平洋戦線では武器を携行せざるを得なかった、さらにベトナム戦争ではライフルを持つに至ったというのも事実なようです。

映画「トラ・トラ・トラ!」のラストに山本五十六長官が「眠れる巨人を起こし、奮い立たせたも同然である」というセリフがありますが、ここの英訳もジュネーブ条約違反になっていたと思います。

アメリカ人にとっても、日本人にとっても、相手が同じ人間に見えていたのかどうかは興味があるところです。

投稿: axbxcx | 2007.05.21 21:23

axbxcx さん、

欧州戦線では武器を一切携行していなかったのに、太平洋戦線では携行せざるをえなかった、というのは日本軍の兵士がひどいことをしたから、ということですか。ベトナムでも?上層部はジュネーブ条約について知っていたけど、守る必要はない、と考えていたということでしょうか。

>...ここの英訳もジュネーブ条約違反になっていたと思います。

すみません、意味がよくわからなくて(^^;)。訳された「英文」がジュネーブ違反ということですか?日本語の原文には問題がないのに?

「硫黄島からの手紙」は読んでいないし、映画も見ていないので、近いうちにDVDを見たいと思います。「トラ!トラ!トラ!」も見ていないのですが、おすすめの映画でしょうか?...とまたまた質問連発ですみません....m(_ _)m

>アメリカ人にとっても、日本人にとっても、相手が同じ人間に見えていたのかどうかは興味があるところです。

そうですね...

原爆に対する反応が日米でかなり差があるので、講師の先生が「アメリカ人と日本人は違う種類の人間なのか?」と話されていて、うーん、と思ってしまいました。原爆を落とした人間が「落としてよかった」と言うのは、広島や長崎の惨状を知らないからだろう、知ってもらえばいい、と思っていたら、実はその人たちは直後に長崎を訪れていたのだと知り、ショックだった、ということでした。人間であれば、あの惨状を見て心を動かされないはずはない、と思うのですが...「敵」は人間ではないのかもしれませんね、どちらの側にとっても...だから撃つことができるのかも...

投稿: じゃりんこ | 2007.05.21 23:23

じゃりんこさん、寝ぼけて訳のわからないことを書いていたかも知れません。 まず欧州戦線では、日暮れとともに休戦して、お互いに負傷兵を救援するというようなことも行われていたようです。 ところが太平洋戦線ではガダルカナルで無差別の肉弾戦(藤田嗣治の描いた「血戦ガダルカナル」は強烈でした)になった、その上、衛生兵は守られるどころか狙い撃ちにされた、それで武器を携行するようになったということだろうと思います。

「父親たちの星条旗」の原作には、日本兵がなぜかcorpsmanという単語を知っていて、「Corpsman!」と叫んで衛生兵を誘き寄せ、もろとも自爆するというエピソードも出てきました。 また「硫黄島からの手紙」にはヘルメットに赤十字の付いた衛生兵のポスターを兵隊たちに見せているシーンがありました。 「父親たちの星条旗」の主人公が洞窟の中で見た友人の姿と言うのは、目を刳り出され、耳を削がれ、腕を切断され、切り取られた性器を口に突っ込まれた状態だったそうです…。

一方、カーチス・ルメイによる無差別都市爆撃がドレスデンなどから始まったところを見ると、特に日本だけをターゲットにした訳ではないようにも思います。 3月10日の東京大空襲の死者が10万人ですから、非人間性という意味では、原爆に劣らないのと思いますが…。 原爆に関しては、マンハッタン計画に関わっていたリチャード・フェインマンの書いたものなどを読むと、少し救われる気はします。 また無差別都市爆撃について、ロバート・S・マクナマラのドキュメンタリー"The Fog of War"は観て損がないと思います。

「トラ・トラ・トラ!」、黒澤明監督が降ろされた段階でかなり方向が変わってしまったとは思いますが、部分部分に素晴らしいカットはある、そんな感じでしょうか。 わざわざ観るほどのことはないかも…。 ただ、山本五十六にせよ、栗林忠道にせよ、あるいは西竹一(ロス五輪の馬術金メダリスト)にせよ、アメリカをよく知っていた人たちが戦争をしなければならなかったことの悲劇は強く感じます。 戦時中、最後まで英語を教えていたのは海軍兵学校のみだったということにも…。 校長が条約派の井上成美だったからですが…。

私はいまKurt Vonnegutの"Slaughterhouse-Five"を読んでいます。 捕虜としてドレスデンの収容所で空襲にあった人です。

投稿: axbxcx | 2007.05.22 13:19

じゃりんこさん、すみません。 忘れていました。 「トラ・トラ・トラ!」のラストのセリフですが、ジュネーブ条約違反なのは「宣戦布告せずに奇襲を掛けたこと」だろうと思います。 それでは「眠れる巨人を起こし、奮い立たせたも同然である」

それからネットで調べてわかったのですが、ジュネーブ条約の捕虜の待遇に関する部分(1929年)に日本代表は署名したものの、陸海軍の反対で批准しなかったそうです。 その理由は、捕虜になることは恥辱であるのに、それを奨励する如き誤解を招くから…。 集団自決でもそうですが、具体的な命令があったかどうかを問題にすること自体、私には理解ができません。 問題は組織のカルチャーがどうだったかでしょう。 もっともソ連も同じだったそうですが…。

投稿: axbxcx | 2007.05.22 15:07

axbxcx さん、

丁寧にコメントしていただき、ありがとうございましたm(_ _)m。
欧州戦線の話は、戦争を一種のスポーツと考えているように聞こえてしまいます...戦争って「食うか食われるかの世界」というイメージがあるから、私には欧州戦線の人たちの感覚のほうがわかりにくいです...もっとも、衛生兵にそんなひどい拷問をした人の感覚のほうが理解できる、というわけではありませんが。

知らないことが多すぎて、とてもまともに axbxcx さんと話せそうにないので、とりあえずいくつかDVDなどを見てみようと思っています。先日、ツタヤディスカスに入会したのですが、気になったDVDをポンポンと予約リストに入れていけるのがなかなか便利です。フォッグオブウォーもさっそく登録しました。でも、あっというまに予約リストのDVDは40本くらいになり、2本ずつ手元に送られてきても、その間にまた見たいDVDが出てきたりで、予約リストのDVDの数は一向に減らず、むしろ増えていく一方だったりします(^^;)。

投稿: じゃりんこ | 2007.05.22 20:21

じゃりんこさん、無事帰宅してます。 昔、確かディスカバリー・チャンネルで観たのですが、米軍が硫黄島の戦いを分析したところ兵隊たちが人に向けてまともに撃てていないことがわかり、意識せずに撃てるような訓練を徹底したところ、ベトナム戦争では撃てるようになったということでした。

帰りの機内で「硫黄島からの手紙」と「父親たちの星条旗」を何となく観ていたのですが、「硫黄島からの手紙」の衛生兵のポスターのシーンは特にセリフがありませんでした。

"The Fog of War"ですが、"13 Days"と合わせて観るとよいかも知れません。 マクナマラはサイパンではカーチス・ルメイの副官ですが、キューバ危機のときはマクナマラが国防長官、ルメイが空軍のトップになっており、キューバを爆撃したくて仕方のないルメイをマクナマラや司法長官だったロバート・ケネディーが必死で止めるというような構図になります。 ロバート・ケネディーには未完の著作"13 Days"があります。 ちなみに映画「ボビー」はやや期待外れでしたが…。

機内では「史上最速のインディアン」と「輝く夜明けに向かって」も観ました。

投稿: axbxcx | 2007.05.24 04:51

訂正。「史上最速のインディアン」ではなく「世界最速のインディアン」でした。 元気が出る映画でした。

投稿: axbxcx | 2007.05.24 04:52

axbxcx さん、お帰りなさい(^^)。

今日、別のクラスの保育士さんと一緒にお散歩に行ったときに話していたのですが、彼女には実戦に参加したことのある(相手を撃ったことのある)友人がいるそうです。「それってすごくつらい経験だよね」と話したら、"He says he doesn't mind it." と言うので、"He doesn't mind it?" と聞き返すと "For our country" と返ってきました。それってやっぱり自分を納得させる理由が必要なんだろうなと思ってしまいます。意識せずに撃てるようになる訓練とか相手を人間と思わない、そういうマインドコントロール?とかが必要になる気がします。しかも、自分がそうしていることは有意義なことなんだと...

13days はずいぶん前に見ました。映画としてもおもしろかった、という印象がありますが、人の名前とかはすっかり忘れています(^^;)。

機内ではなかなかいい映画をやっていたのですね。「世界最速のインディアン」は私好みの映画でした。「輝く夜明けに向かって」も見てみたいです。DVDのレンタルが開始されたら予約しようと思います。

投稿: じゃりんこ | 2007.05.24 17:42

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