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本「多文化共生のコミュニケーション」by 徳井厚子

副題は「日本語教育の現場から」。長年、日本語教育に携わってこられた著者が、その経験をまとめられたもの。異文化に出会った学生やご自身の感想、エピソードがおもしろかった。異文化というのは、異なる国で育った人や異なる言語の人というだけでなく、ひとりひとりが違う文化的背景や価値観を持っている、という捉え方で、確かに、外国人だけでなく、世代、性別、地域(関東と関西とか)が違う人と接して「カルチャーショック」を受けることもある。寝る時に電気をつけるかつけないか、とか、にんじんの皮をむくかむかないか、とか、違う文化で育った二人が一緒に暮らし始めると、ちょっとした違い(で、人によっては「ちょっとしたこと」じゃなかったりするわけだ)が気になったりする。

ご自身の失敗談としてあげておられた例が、「自宅に招待した友人が夜遅くなっても帰らないときに、帰ってもらいたいことを伝えるには何と言いますか」というアンケートをとったとき。何人かの韓国人留学生に「招待した友人に帰ってもらいたいなどとは思わないから、そういう状況はあり得ない。一晩中でも一緒にいたいと思う」と言われたのだそうだ。無意識に設定した状況が、当の学生にとってはきわめて不自然なものであり、付き合い方そのものの多様性を無視したアンケートをとろうとしたことにはっとされたと言う。

自己開示の大きさの度合いも人それぞれで、オープンな人もいれば、自分をあまり出したくない人もいる。日本語教師はともすれば自己開示の大きい学生を高く評価しがちだけど、それぞれの違いがあることを認め尊重したうえで授業を行なうべきではないか。また非言語コミュニケーションの大切さ。学生が質問に来たけど、質問内容はたいしたことがなさそう。しかし、彼女の様子から、相談したいことがあり、そのきっかけをつくるために質問に来たのだ、と気づいたり。

異文化トレーニングで使われる「DIE」という方法。Description(知覚)、Interpretation(解釈)、Evaluation(評価)、のそれぞれ過程を意識化することで誤解が生じたときの解決に役立てようとするトレーニング。たとえば、お賽銭箱を見て、大人の日本人なら、それが何であるかについて疑問をもつことはないだろうが、初めて見た外国人はどうだろうか。「神社の前にある」「四角い木の箱」「上に木の棒がたくさんある」などと知覚し、これが何であるか考える。「日本人は建物の入り口で靴をぬぐから、これは靴の泥を落とすものだ」と思うかもしれない。「お祈りのときにたたいて音をだすもの」と思うかもしれない(解釈)。そして「便利な箱だ」とか「神聖なものだ」などの評価をする。

同じ景色を見ていても、人によって見えているものが違ったりする、というのは時々経験することだ。映画を見ても、友人が印象に残った場面を話し出して、「わぁ、そんなとこまで見てるんだ」と思ったり、よく通る道に新しい店が出来ていて、私はその前に何があったのかまったく思い出せないのに、友人は「えー、○○、なくなっちゃったんだ」としっかり覚えていたり。視点を変えて見ることの大切さを実感するために取り入れられている「物語再構成」というのもおもしろい方法だと思った。たとえば、「桃太郎」を鬼の立場から書いたり、「シンデレラ」を姉の立場から書いたり、など。違う立場に立つことで同じ状況が違って見えてくる、ということがあるかもしれない。

人が自分なりのものの見方をするのは当然だけど、自分とは違った人と出会うことで、いろんなことに気づかされる。違いを楽しむだけならいいけど、一緒に仕事をしたり生活する、ということになると、なかなか大変なこともある。そんなとき、違いを認めて、できるだけ尊重して、そしてどういう方法をとるのが一番いいのかを一緒に考えていく。多文化コミュニケーションの授業ではそういう力をつけていくことをめざしているわけで、おもしろいなぁと思う。

4757406452多文化共生のコミュニケーション―日本語教育の現場から
徳井 厚子
アルク 2002-08

by G-Tools

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