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本「日本語の論理」by 外山滋比古

この本を読もうと思ったのは、幼児の英語教育に対する批判的な意見が書かれているとのことだったので。確かに批判的な意見が書かれていたのが、述べられている理由はそれほど「論理的」なものだとは私には思えなかった。

幼児にはまず三つ児の魂をつくるのが最重要である。これはなるべく私的な言語がよい。標準語より方言がよい。方言より母親の愛語がよい。ここで外国語が混入するのはもっともまずいことと思われる。(p.144)
このように書かれていて、何故それが最重要なのか、何故なるべく私的な言語がよいのか、については述べられていない。(「会話の原型が形成される時期に言語学習を受けない幼児は、あとになってどんなに努力しても一人前の言語生活はできない」ということで、アヴェロンの野生児の例をあげてはおられる。p.33)「家族づれで外国生活をしてきた家庭の子供にしばしば思考力の不安定なものが見受けられる」とのことだけど、それはそうでない場合に比べて多いのかどうか、読者に具体的にはわからない。確かに、バイリンガルで育てようとして、どちらもうまく話せない、という例はあるようだ。アメリカ人と結婚している日本人のおかあさんからそういう話を聞いたことはある。ただ、英語とスペイン語の完璧なバイリンガルの人というのを知っている(メキシコ人の彼女は5歳のとき、母親から離れてアメリカに住む伯母のところへ預けられたそうだ。思考力が不安定という印象はない)し、フィリピンの人達は方言とタガログ語を小さいときから話し、さらに小学生から英語を学ぶ。フィリピンの人で、論理的でないと思える人はいるけれど、すべての人がそうではない。日本人でもアメリカ人でも、論理的でないと思える人はいる。...ただ、考えてみると、確かにフィリピンの人と議論になると、一方的に議論を打ち切られてしまう、ということが何度かあった。「こうこうこうでしょ」というふうに反論すると、「聞きたくない」「あなたとは話したくない」と言われてそれ以上話ができなくなってしまう。

私も、人は「母国語」といえるものがあったほうがいい気はする。でも、小学生にもなれば、母国語はもう安定しているだろうから、子どもが興味を持つのであれば、外国語の勉強を始めても害はないと思う。子どもによってはもっと早くても大丈夫だろう。言語によって使用される音域が違うので、子どものほうがそれを聞き取れる耳を作りやすいというのはあると思う。「だから外国語を学ぶのは早ければ早いほどよい」とは私も思わないけれど。

言葉に関する考察を読むのはおもしろかったけど、外山さんがこの本を書かれた時代(1967年~1972年)と今とでは、言葉をめぐる状況もずいぶん変わっている。断定的に書かれていることに対して、そうかなぁ、と思うことは結構あった。「多くの日本人の書く文章は骨なしだ」とか。

なるほど、と思ったのは、外から見ることでかえってよく見える、ということ。ある土地の紹介を書くのに、そこに住んでいる人よりも、その土地を初めて訪れた人や数回訪れたくらいの人のほうがいいものが書ける。そこに住んでいる人にとってはなんでもないことが他の人の目から見ると新鮮に映る。「インサイダーが必ずしも万能ではない。インサイダーは、あまりにも身近にあるために、対象を客観視することができない。かえって遠くにいるものの方によくわかる点がある(p.202)」。というわけで、「アウトサイダーの立場で外国語を研究することは意味がある」というのは、なるほどと思う。確かに、外国の人から言われて初めて、日本語の不思議さに気づいたりする。

だから、「外国語を学ぶにあたって、赤ん坊が言葉を覚えるようなプロセスで学ぶというナチュラル・メソッドはダメで、あくまでも外国語は母国語とは違った次元で学べ」というのが外山さんの持論だ。読むことが第一で、そのあと書く、聞く、話すの順になると言う。赤ん坊が言葉を覚えるにはまず耳から聞いて、それを口に出す、その後文字を理解するようになっていくわけだが、外国語を学び始めるのは母国語が確立してからだから、それとは逆の順序であるべきだ、という。それも一理ある。文法が理解できる年齢であれば、文法を知ることは言葉を学ぶのにずいぶん助けになると思う。ただ、幼児が外国語の簡単な挨拶を覚えたり、歌ったりすることが母国語獲得の妨げになるとも思えないし、他国への興味を広げるきっかけになると思う。ただ、母国語と同じレベルにしようとするのはやっぱり行きすぎかな...って結局、私も外山さんの意見とほぼ同じかもしれない。幼児をバイリンガルに育てようと、二ヶ国語に同じ比重を置いて話しかけるのがうまくいくとは思えない。やはり「母国語」は必要だろう。

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