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映画「ぜんぶ、フィデルのせい」 La Faute à Fidel!

1970年、日本では万博で浮かれていたけど、世界ではいろんなことが起こっていたんだなぁ。チリでは社会主義者のアジェンデが勢力を強めていて、スペインではフランコによる独裁政治が続いていて、フランスでは中絶禁止に反対する声が強まってきていて...。何が正しくて、何が間違っているのか、大人だって判断に迷うことはあり、時代の波に揉まれながら、正しい道を歩もうとするわけだけど、これはそんな大人に振り回された子どもの話。

アンナはフランスのカトリックの学校に通う9歳の女の子。弁護士の父と雑誌編集者の母、5歳の弟とともに庭付きの家で何不自由なく暮らしていた。ところが、両親が共産主義を支援するようになって生活が一変。狭いアパートに引っ越し。そこではいつもたくさんの人が出入りしている。カストロの悪口を言っていたお手伝いさんは解雇されてしまった。親の要望により、学校では大好きな宗教の授業に出られなくなる。アンナにとってはおもしろくないことばかりで、「どうしてこうなるの?」という疑問を持つのはもっともだ。

見ていて、お粗末な親だなぁと思ってしまった。私だって人のことを言えるような立派な親じゃないけど、でも、こんなに大きな生活の変化があったなら、まず子どもに、どうしてこうなっているのかについてできるだけわかるように説明しようとするだろう。アンナのように賢い子なら、ある程度わかるように説明することはできるはずだ。それをすっとばして、理想を追い求めることに忙しい大人の滑稽さ。

そんな大人とは対照的に、実に小気味よい子どもたち。アンナはしっかり自分の頭で考えて疑問を率直に口に出すし、弟君は、生活の変化をものともせず、それを楽しんでしまっている(^^)。鋭いアンナちゃんも好きだけど、彼のマイペースぶりがまたなんともいい雰囲気だった。

(以下ネタバレ)

アンナの親について、とりわけ私が許せないと思ったのは、お手伝いさんの扱い方だ。お手伝いさんは子どもたちと密接に関わっていた人たちなのに、お互いにさよならを言う機会も与えずに解雇して違う人を雇う。そんなことを続けていたせいで、最後、アンナが自ら転校を決めたとき、「そうすると仲良しのお友達と離れることになるのよ。それでもいいの?」と尋ねる母親に、アンナが答える。「そんなの、お手伝いさんと同じよ。最初はちょっとさみしいけど、すぐに新しい人に慣れるわ」...違うだろう、と思ってしまった。友達との関係も、お手伝いさんとの関係も、ひとつひとつ大切なもので、そんなに簡単にとって変えられるものじゃない。人生に別れはあるし、新しい環境に慣れることは必要だけど、人と人の関係は、人と物との関係とは違うのだ。共産主義はすべての人が平等に一であることをめざしたのかもしれないけど、みんな同じ部品ではない、違っていてもいいんだ、それでも同じ一なんだ、っていうことをもっと教えなければいけなかったんじゃないかと思う。アンナの答えを、母親も父親も褒めて、「アンナも成長したんだなぁ」という感じで受け止めているけれど、製作者も同じ思いだったのだろうか。それとも、観客におかしさを感じさせようとしたのだろうか...

アジェンデが選挙に勝ったとき、みんなが歌いだして合唱になった場面は素敵だった。いろんな声が合わさってハーモニーが生まれる(^^)。

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コメント

その世代に近いせいか、映画の中の親たちを単に滑稽とは思えない私でした。 この映画を観た後、すぐに「ミッシング」を観直したのですが、それはこの映画の中に監督ジュリー・ガヴラスと父コスタ・ガヴラスとの親子の関係を感じたからです。

高校3年生のときに観た「Z」、そして大学に入ってから観た「ミッシング」、ともに映画としてよくできているというよりも、強烈な印象が残った映画でした。

最近、革命前後のキューバが舞台の「夜になるまえに」(「海を飛ぶ夢」のハビエル・バルデム主演)を借りて観たのですが、まだまだいろいろな観方があるんだなあと思います。 サンチャゴの雨について、日本もピノチェト政権を支持した訳ですし、いまの新自由主義の流れを作った一つが「チリの奇跡」だったことを思うと…。

投稿: axbxcx | 2008.02.18 11:09

axbxcx さん、

そんな偉そうに人を批判すべきではないと思うんですけど、この親たちは、社会のために一所懸命にやろうとする気持ちはありながら、足元を見ていないというか...私自身、頭でっかちになる傾向はありそうなので、自戒をこめて(^^;)。私の場合、やはり子ども相手の仕事なので、大人の子どもへの接し方は気になります。

「ミッシング」はディスカスの予約リストに入れました。

>この映画の中に監督ジュリー・ガヴラスと父コスタ・ガヴラスとの親子の関係を感じた

「ミッシング」見るの、楽しみです(^^)。
昨日、ディスカスで借りた「チャイナ・シンドローム」を見ていたんですが、ジャック・レモンはやっぱりいいなぁと思います。

中南米の歴史はまだまだ知らないことばかりで...来期は放送大学で「比較政治ー中南米」というのをとったので、もう少し勉強する予定です(^^;)。

投稿: じゃりんこ | 2008.02.18 19:57

この映画で私が引っ掛かったのは親、特に夫の設定でした。 スペイン人でフランコを支えた家柄というのはいいですが、あんな大貴族?みたいな家となると私にはどうもリアリティーがなくて…。

お手伝いさんについて、実話ならその通りですけれど、私はひねくれていますから、監督(兼脚本)がなぜそういうストーリーにしたのかと考えてしまうのです。 「共産主義」のことも同じです。 なぜ監督はそう捉えたか、あるいは親たちにそう捉えさせたか…。 原作(イタリア人なんですね)を読んでいないので、それが監督自身の考えかどうかはわかりませんが…。

「チャイナ・シンドローム」もそうですが、ジャック・レモンの役は、あそこまで極端さを感じさせる必要があっただろうか、もっと「普通の人」でよかったのではないかということはずっと思っています。 「Z」はその後観たことがありませんが、イヴ・モンタンもよかったです。

「シルクウッド」は映画としてよくできているとは言い難いですけれど、比べると「チャイナ・シンドローム」はやはりハリウッド映画だなと…。 前にも書きましたが、ジャック・レモンが撃たれたシーンで、"I don't like it."と言って出て行った女性がいたことは忘れられません。 1977-8年はオクラホマにいましたから、シルクウッド事件のことは少しですが聞いていました。

私、メリル・ストリープをとても尊敬しているのですが、残念ながら彼女が出て面白いと言うか、よくできた映画ってほとんどないような…。 「シルクウッド」とか「A Cry in the Dark」とか、実話を元にした重要な社会派映画にも出ているのですが…。

投稿: axbxcx | 2008.02.19 00:24

axbxcx さん、

夫の設定とか、少し私には消化不良のところがありました。最後、結局、夫婦は離婚したのでしょうか。アンナの髪がかなり伸びていたから、その前の転校を決めたシーンからはかなり時間がたっていると思えたのですが、まるで転校した最初の日だったようなラストでしたが、そのあたりもはっきりわからなくて...

お手伝いさんの扱いについては監督の意図を知りたいです。

「チャイナ・シンドローム」のジャック・レモン、私は実直な技術者の感じが良く出ていたと思います。
>ジャック・レモンが撃たれたシーンで、"I don't like it."と言って出て行った女性がいた
そうでしたっけ(^^;)? 気付きませんでした。もう一度見てみます。

シルクウッド、私は見ていません。
メリル・ストリープでは「ソフィーの選択」に衝撃を受けました。「誤診」もよかったです。「ディア・ハンター」も思い出深い映画だし、結構おもしろい映画に出ていると思いますが(^^)。

投稿: じゃりんこ | 2008.02.19 05:58

"I don't like it."は映画ではなくて実際の話です。 フロリダの映画館で、若い女性の観客が突然出て行きました。

「チャイナ・シンドローム」でジャック・レモンが演じた技術者、あんなに閉じてしまわず、もう少し他の人たちと一緒に動くとか、そういう「普通の人」として描くこともできたのではないかと思っているのです。 「ミッシング」のジャック・レモンは保守に超が付くようなクリスチャン・サイエンス・モニターの敬虔な信者の役でしたが、いずれにしても、二つの役のタイプがあまりに似ているので…。 ついでに言うと「A Cry in the Dark」の主人公夫妻はこれも原理主義的なSDAの牧師夫妻(これは実話)でした。

メリル・ストリープが出演している映画に関して、よくはできているし衝撃的かも知れませんがあまり面白い映画ではないと思っています。 これも前に書きましたが、「ディア・ハンター」は私にとってずっとコントラバーシャルな映画です。 わざわざロシア移民を主人公にしていること、べトコンの描き方、さらには東洋人そのものへの観方(恐らくはマイケル・チミノの視点)が私はとても偏っていると思うからです。 また「戦争は悲惨だけれど、今度戦争があったらまた戦う」という映画でもありました。 でも好きなんです。 舞台のクレアトン(ピッツバーグ郊外)や、ロケ地探し(ストーリー上はニューヨーク州辺りですが、実際にはワシントン州とカナダの国境で撮られていたことが後からわかりました)に出かけたこともあります。 メリル・ストリープが出ている映画で何が好きかと訊かれれば、間違いなく「ディア・ハンター」と答えます。

話は変わりますが、先週、ミネアポリスの空港から乗ったホテルのシャトルバスの運転手はエルサルバドルから来たと言っていました。 オリバー・ストーンの「サルバドール」の場面が頭に浮かんだので、思わず「国は最近落ち着いてますか?」と訊いてしまいました。

昨晩は久しぶりにデビッド・リンチの「ストレート・ストーリー」を観ました。 下の娘がなぜかリンチに興味を持っています。 今日は「イレイザー・ヘッド」を観る予定です。

投稿: axbxcx | 2008.02.19 08:25

axbxcx さん、

あ、映画の中の話ではなかったんですね。その女性は、そういう映画の展開が気にくわなかったのか、そんなことをする人たちが許せなくてもう見ていられないと思ったのか、どちらなんでしょうね。

「チャイナ・シンドローム」のジャック・レモン、そんなに極端な人には見えませんでしたが...仲間と飲みに行ったりもしていますし。みんなとともに解決しようとしたけれど、聞き入れられなかったので、最後の手段としてああいう行動をとってしまった、というふうに描かれていたと思います。

>よくはできているし衝撃的かも知れませんがあまり面白い映画ではない

うーん???そうですか(^^;)...

「ディア・ハンター」、細かいところはよく覚えていません(^^;)。昔は今以上に何もわかっていなかったので、今見たら、昔とは違った感想を抱くだろうな、とは思います。"Can't take my eyes off of you" がとても好きな曲です(^^)。

キューバから帰るときに一泊したアトランタのホテルのシャトルバスの運転手はインド出身の方でした。アメリカはいろいろな国からの移民を受け入れてきたわけで、その人たちもアメリカでの生活のほうが居心地がいいと感じているわけですから、やっぱりすごい国だなぁとは思います。

投稿: じゃりんこ | 2008.02.19 17:34

遅レスです。

フロリダのその女性は、ジャック・レモン扮する技術者が殺されるという展開にショックを受け、怒りを感じたのだと思います。

この映画のヒントになったシルクウッド事件では、ケミカル・エンジニアのシルクウッド(映画「シルクウッド」ではメリル・ストリープ)は自動車事故によって謎の死を遂げています。

"Can't take my eyes off of you"は私も大好きで、CD探しました。 クリストファー・ウォーケンのファンになりました。

投稿: axbxcx | 2008.03.01 00:39

axbxcx さん、

>フロリダのその女性は、ジャック・レモン扮する技術者が殺されるという展開にショックを受け、怒りを感じたのだと思います。

そうですか。アメリカの人は日本人より感情をストレートに表現する、というのはやっぱりある気がしますね。この間、「河童のクゥと夏休み」という映画を見に行ったときに、子どもの観客が多かったのですが、彼らは素直に感想を口にしていましたから、日本人の場合、大人になるにつれ、感情をストレートに表に出さなくなるんですかね。

シルクウッド事件がこの映画のヒントになったのだとは知りませんでした(シルクウッド事件というのも知りませんでしたが(^^;))。でも、自分に不利な証言をさせないために、事故を起こす、みたいなことはアメリカではありそうだなぁ、と感じてしまいます。

投稿: じゃりんこ | 2008.03.01 07:13

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