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本「ルポ 貧困大国アメリカ」by 堤未果

読みやすい文章で興味深い内容なのでぐんぐん読めるけど、そのうち、「本当なのかなぁ」という気になってくる。アメリカが病んでいる、ということを、これでもかこれでもか、と紹介されるので、本当にそこまでひどいのか、と信じられなくなってくるのだ。基地の人たちを見ている限りでは、そこまでひどい状態だという実感はない。でも、この本に書かれていることが嘘だというわけではないのだろう。

「イラクや北朝鮮で非情な独裁者が国民を飢えさせていると大統領は言いますが、あなたの国の国民を飢えさせているのは一体誰なの?と聞きたいです」(p.30)

学校給食に参入してくる企業。医療や教育の場面に持ち込まれる市場原理が何をもたらしたか。2005年、ハリケーン・カトリーナがアメリカ南部を襲ったとき、テレビの映像を見ていて「これがアメリカ?」と思ったけど、そのあと地域は再建されるのではなく、これをきっかけに、と削除されてしまった。「やっとニューオーリンズの貧困者向け住宅が片付いてくれたよ。我々ができなかったことを神が代わりにやってくださったのさ」(p.50)

そして貧しい人や、移民であるために十分な権利を持たない人達が頼るところが軍だ。入隊すれば医療費が無料、軍が大学の学費を出してくれるなどの様々な特権がある。2002年に成立した「落ちこぼれ防止法」(No Child Left Behind Act)は教育改革を標榜しているが、本当のねらいは個人情報の収集にあったのだという(p.101)。全米のすべての高校は生徒の個人情報を軍のリクルーターに提出しなければならず、拒否すると助成金をカットされる。貧しい地域の高校は生徒の個人情報を提出せざるを得ず、軍のリクルーターたちの恰好のターゲットとなる。「生徒の個人情報の提出をせよ」という法律がある、というのは驚きだ...うちの保育園だって、個人情報の扱いには気をつけている。アメリカ人の感覚からすれば、おかしな法律だと思って当然だと思うのだけど...

しかし、軍での待遇も、リクルーターたちが言うようなバラ色のものとは限らない...さらに問題なのは、軍の仕事内容が民営化されていっていること。民間の会社に就職してイラクに派遣された人たちが、過酷な労働条件やストレスの多い環境から心や体に変調をきたしても何の補償もされないし、流れ弾にあたって死亡したとしても戦死者として数えられることはない...

「もはや徴兵制など必要ないのです。政府は格差を拡大する政策を次々に打ち出すだけでいいのです。経済的に追いつめられた国民は、黙っていてもイデオロギーのためではなく生活苦から戦争に行ってくれますから。」(p.177)

「実はすべてを変えたのはテロそのものではなく、「テロとの戦い」というキーワードのもとに一気に推し進められた「新自由主義政策」の方だった。」と、著者はあとがきで書いている。ここに真実がある気がする。
自由が尊い価値であることは否定しない。「自由の国に生まれた者には、自由が何物にも勝る贈り物であることはわからないだろう」と、映画「君の涙、ドナウに流れ」で言われていたけど、それが飢える自由でしかないのだとしたら、やはり何かが間違っているのだと思う。

4004311128ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)
堤 未果
岩波書店 2008-01

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