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本「あなたの話はなぜ「通じない」のか」by 山田ズーニー

うーん、さすが、という感じ。著者は長年、高校生の小論文指導に関わってこられたそうで、確かに、文章に説得力があって、なるほど、と思うことが多かった。

そもそも私がこの本を読んでみようと思ったのは、「正論はなぜ人を動かさないのか」という問いに興味を惹かれたからだ。正論を並べ立てても人は動かない。それは常々感じていることだ。大人に対しても子どもに対しても。ルールを守らない人に「ルールを守るべき」と力説して事態が改善するかというと、そう簡単にはいかないことが多いだろう。まして2歳児となれば、もう理屈ではなかなか動いてくれない(たまに動いてくれることもあって、そういうときは感激する(^^))。わかっちゃいるけど、やりたくない。あるいは、あなたの話なんか聞きたくもないーそういう相手とどうやってコミュニケーションをとっていけばいいのか。

著者はまず、「何を言うか」より「誰が言うか」のほうが意味を持つことがある、と言う。「ついに宇宙とコンタクト」という記事が、日本経済新聞に出た場合と東京スポーツに出た場合で、人が受ける印象は違うのではないか。同じことを言っていても、その記事を信用できると思うかどうかの度合いは違う。山田さんはそれが「メディア力」だと言う。メディア力が高ければ、人に話を聞いてもらえる。メディア力が低ければ、はなから相手にしてもらえない。大手出版社に勤めていた山田さんが独立してフリーランスになったとき、大手にいたときなら簡単に通じた話が通じなくなってしまったことに愕然とされたそうだ。では、自分のメディア力を高めるにはどうすればいいのか。

そして、「正論はなぜ人を動かさないのか」という問い。山田さんはそれにこう答えておられる。

正論を言うとき、自分の目線は、必ず相手より高くなっているからだ。(p.126)

正論には反論できない。正論は人を支配し、傷つける。とりわけ、自分が対等だと思っている相手、あるいは目下だと思っている相手から正論を言われると、プライドが傷つき、感情を害してしまう。理性より感情のほうがコミュニケーション速度が速く、人は正論を言う相手を「自分を傷つける人間だ」と感じて警戒し、スムーズなコミュニケーションが成立しなくなってしまう。

そこで、山田さんは、「共感を入口にしたコミュニケーション」ということを提案されている。共感とは、相手に媚びることではない。相手との接点をさぐっていく。相手の言っていることに賛成できなくても、問題意識ー「問い」が共有できる、ということはある。まず、相手の話をよく聞き、相手が何を問題にしているのかを理解し、「自分はあなたの問いを理解していますよ」ということを言葉にして返していく。相手からの信頼を得ることが自分のメディア力を高めることになるわけだが、どうすれば相手の信頼を得られるのか。アルピニストの野口健さんが大学の一芸入試で、どうやって試験官を納得させたのか、という話も興味深かった。

「上司に自分の意見を言う」にしても、言葉は関係性のなかで相手に届くものだから、まずは日ごろからのコミュニケーションをはかって関係を築いていこう、というのもなるほど、と思った。上司はいつも忙しい。つまらないことで上司の時間を割きたくない、と、ふだんはほとんど話すこともない。ところが、何か問題がおきて、どうしても上司と話す必要がでてきて話すことになるとする。すると、上司からみれば、「じゃりんこが自分のところに来るのは問題のあるときばかりだ」という印象になり、そんな人間の話を聞きたいかと言うと...

私が「言葉」に興味があるのも、結局、コミュニケーションに興味があるからなんだろうな。コミュニケーションという視点で、保育のことを見ていくのもおもしろいかもしれない。

4480422803あなたの話はなぜ「通じない」のか (ちくま文庫)
筑摩書房 2006-12

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書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。

南インド料理のおさそいに来たら、びっくり。この本、執筆業の方に勧められて先週読んでました。

とても良い内容ですね。

「誰が言ったよりも、何を言ったか」を大切にすべき、というビジネス書の教えが幅を利かせているので、この本はもっと読まれると良いと思いました。

投稿: Shira | 2009.10.02 19:07

なんと、Shira さんも同じ時期に同じ本を読んでおられたんですね。新刊というわけでもないのに奇遇ですね(^^)。

ええ、この本、なるほど、と思うところがたくさんありました。
「誰が言ったかよりも、何を言ったかを大切にすべき」というのは真実なんだと思いますが、そもそも何を言ってるかを聞いてもらえないと意味がないわけですよね。

南インド料理、楽しみです(^^)。

投稿: じゃりんこ | 2009.10.02 21:07

みなさん、あちこちで「導かれて」ますねえ。(^^) 歳のせいかも知れませんが、決して確率では測りきれない何かがあると確信を持つようになりました。 それが何かがわかれば説明できるんですが、わからないから「導かれて」いると感じてしまうのかも…。

10年以上前に私が言ったことを、友人がなぜ覚えているのかと驚いたのですが、彼曰く「心に響く問いかけは意識に残る、共鳴する」、でも議論したようなことは何も覚えていないと…。

「正論」は心に響くことも、共鳴することもなさそうです。

投稿: axbxcx | 2009.10.07 20:31

axbxcx さん、

そうですか、私は10年も前に axbxcx さんと議論?したようなことを覚えていたりしますが(^^;)...

友達と話していると、ときどき、こちらが覚えてもいないようなこと(そのときどんな服を着てたとか、何を食べてたとか、何月何日だったとか)を覚えていて、びっくりすることがあります。自分でも、さほど重要とは思えないつまらないことを覚えていたりすることがあります。

何が心に残るか、というのは、そう簡単に法則的には言えないことなのかもしれませんね。

投稿: じゃりんこ | 2009.10.07 22:20

あ、ちょっと端折ってしまったのがよくなかったかも知れませんが、議論したことというのはテクニックなどあまり本質的ではないことという意味でした。

本質的なことはそう簡単には議論できませんから、議論になるのは実は表面的なことか、あるいはお互いに理解できていないことかも知れません。

私は実は見たものはかなりよく覚えています。 一方、言葉とか名まえはまったくダメです。 要するに右脳人間なんだろうと思います。

投稿: axbxcx | 2009.10.08 01:10

axbxcx さん、

私は右脳人間ではないと思います。
といって言葉や数字に強いというわけではないんですが。

>本質的なことはそう簡単には議論できません

このあたりのことは、直接顔を見て話すほうがよさそうですね(^^)。

投稿: じゃりんこ | 2009.10.08 08:20

はは、確かに。

その友人とは、昨日だけでメール6往復でした。 何をやり取りしているかと言えば、ローレンツの「人イヌにあう」や日高敏隆の話からしばらく前に始まった「量と質」「分析論と全体論」「一つのスケールと多様性」「評価とは」…。

仕事では「枠組みありき」ですぐに詳細な話になることが多いので、枠組みを取っ払って話せたり、あるいは枠組みそのものについて話せるのが、私にはとてもありがたいです。

明日はその友人と半日歩きながら話をする予定です。

投稿: axbxcx | 2009.10.08 09:02

axbxcx さん、

台風ということで保育園がクローズ、自宅待機になっていますが、雨もたいしたことないですね。風は強いですが。これからなんですかね。

明日は晴れそうですね。お友達と楽しい時間を過ごされますように(^^)。

投稿: じゃりんこ | 2009.10.08 09:39

ありがとうございました。 本当にいい天気で、ウォーキングには最高でした。

武蔵小金井から小金井公園、井の頭公園、善福寺公園、妙正寺公園経由で阿佐ヶ谷まで、自宅との往復を含めて36kmくらい歩いてしまいましたが、二人での会話が楽しくて、距離も時間もまったく忘れていました。

投稿: axbxcx | 2009.10.10 09:24

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