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本「イスラームから考える」by 師岡カリーマ・エルサムニー

とてもおもしろかったのですごく久々にブログを書く気になった。
師岡カリーマさんは、NHKのテレビアラビア語講座で「アラブ千夜一夜」というコーナーを担当されていて、現代のアラブ世界の日常や、アラビア語で書かれた文学などを紹介されている。日本人のおかあさんとエジプト人のおとうさんの子どもとして東京で生まれ、小学校の時にエジプトに移り、大学までエジプトで教育を受けられた。カリーマさんがアラビア語で朗読されると、それは耳に心地よい一種の音楽のようで、「コーランは一語一句まちがえずにアラビア語で読まれなければならない」と言われるのがわかる気がする。でも、日本語もとても自然に話され、二か国語(以上)を読み書き話すことのできる、いわゆる均衡バイリンガルの方である。

日本人的な見方もアラブ人的な見方も両方わかるがゆえの苦悩だったり、それゆえかえって自分自身が意識せずにステレオタイプ的な見方をしていることがあることに気づいたり、読んでいて、なるほどなるほどとうなずくことがたくさん。図書館から借りた本は付箋だらけになってしまい、結局自分で買うことにした。

この本を書くきっかけになったのは預言者ムハンマドの風刺漫画騒動だと言う(p.215)。「なぜイスラーム教徒はこれほどに反発するのか」を論じる前に、「死者とはいえ生身の人間を侮辱することを表現の自由として称揚することが本当に人の品位にふさわしいか」を考えるべきではないのか、と書かれ、「イスラームが絡む事件はどうしてもイスラーム問題として捉えられがちだけれど、多くの場合はイスラーム云々以前の問題だ」と言われる。ヘイトスピーチが「表現の自由」の観点から擁護(!)されることもある現在、示唆的な意見ではないだろうか。

とにかく、アラブの血をひいているということはなかなか大変なことのようだ。9・11事件が起きた時も、まずはこのことでアラブ人に対する悪いイメージが強まって自分にもとばっちりがくるのではないかと心配されたと言う。アラブに対して否定的な見解を述べる人に対し、自分がアラブ人であることを告げると「君はいいんだよ。君は西洋化された、半分日本人の立派な女性なんだもの」(p.94)と言われた時の複雑な思い。しかし、カリーマさんは「イスラームが世界で厭われている時代に、自分がその一部として生きなければならないのはある意味幸運だった」と書く(p.202)。その思いは、ある程度、私もわかる気がする。

最後の章で、イラク研究の第一人者酒井啓子さんと対談されているのだが、これがまた面白い。「わかりやすい報道」の問題(p.195-)とか。お二人の話を聞いていると、私もまだまだ随分イスラームやアラブに対して、マスコミによって作られたイメージにとらわれているんだな、と感じる。

抜き書きしたいところはたくさんあるけど、とりあえず、「愛国心」に関するところを。日本で愛国教育の導入について議論になっていることに関して、エジプトで愛国教育のようなものを受けたカリーマさんの見解。

「文化を尊重することを教えるよりはるかに効果的なのは文化を教えることだ。この二つは区別されるべきである。エジプトの愛国教育は、結局はエジプトの文化に対する誇りだけを植えつけて、文化自体を教えることにはあまり成功していない。日本の文化の良さを自ら認識する感性を持たずに文化にたいする誇りだけを教えられても、そんな愛国心は空虚な砂の城でしかない。逆に、祖国の文化の素晴らしさがおのずとわかるだけの感性と想像力と教養を育めば、それを尊重するようにわざわざ誘導する必要はない。(中略)。。近年、多くの若者が目的意識や公共意識を失い、生気のない瞳で街をさ迷って、平気で道端にゴミを捨てているのは、愛国心に欠けるからでも、仮想敵国が頭にないからでもない、日本人の強みである自立精神と責任感を失いつつあるからだ。学校は、子供たちの自主性を育み、美しいものを美しいとわかる感性と教養と想像力を伸ばしてあげれば、それで十分なはずだ。」(p.166-)
「。。。大人になって世界をあちこち旅してみると、結局すべての文明が偉大だということに気づく。。。。(中略)。。。もし私に、大好きなベートーヴェンをドイツ人と同じように誇る権利がないのだとすれば、それほどつまらないことはない。」(p.161)
「世界でもっとも洗練された人形劇である文楽や歌舞伎などの日本の伝統芸能が世界無形遺産に指定されるのは、それが文字通り人類の遺産だからだ。文楽の発展に一切貢献していないある日本人が『ああ、やっぱり日本文化は素晴らしいんだ、日本人でよかった(中略)』と言うとしたら、それは虫が良すぎるというものだ。文楽を一、二度しか見たことのない日本人の私と、好きで好きで足しげく通っている外国人とでは、どちらがより文楽を誇るべきだろうか。ロッシーニとヴェルディの区別もつかないが祖国愛いちじるしいイタリア人と、オペラの勉強に一財産つぎこんでいる私とでは、イタリア・オペラはどちらの宝だろうか。」(p.162-)
このほか、ヒジャーブについて、や、パレスチナについての言及もあり、とても興味深い。「イスラームは戒律の厳しい宗教」というのも必ずしも正しいイメージではないのだ、ということも知った。 私は放送大学でバイリンガルについて少し研究をさせてもらったけど、バイリンガルであること(というか多文化を経験すること)のメリットのひとつは、柔軟な考え方ができる、ということだと思う。あることに対して、こういうやり方もあるのか、こういう考え方もあるのか、と知り、多様性を受け入れることができる。 個人のそれぞれの生き方をできるだけ尊重して、他人にはそれを押し付けないで、ということができればいいのだけど…。
イスラームから考えるイスラームから考える
師岡カリーマ エルサムニー

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